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【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第十五帖 明石

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明石④

「女三の宮を迎えよ。これは朕の願いであり……

そなたの家にも、血筋という益となるはずだ」


帝の声音は一見おだやか。

だがその奥にひそむ『帝』としての威圧は、広間そのものを静かに支配していた。

誰もが息を潜め、ただ光る君の返答を待つ。


光る君は頭を下げる。

しかし膝はつかず、背筋は微動だにしない。

折れる気配など一つもない。


「……恐れながら、決意は何度申し上げても変わりませぬ。

私はただ一人、紫だけを妻として生きます。

他の誰を娶ることもありません」


空気が刃のように張り詰め、帝は細い目で彼を見据えた。


「そこまで言うか。ならば……

須磨へ下る覚悟は、あるのだな?」


ざわり、と朝臣たちのどよめきが走る。

一瞬後、息を呑む音すら聞こえるほどの沈黙が広がります。


しかし光る君は、眉ひとつ動かさず答える。


「……須磨、にございますか」


その声音には、迷いも恐れもない。


須磨——

あの地には、明石の上がいる。

荒れ地にて、紫の上と離れ、寂しい夜を過ごしていた時、

彼女の温もりに縋ってしまった夜を思い出されます。


月は雲を払い、まるで覗き見るように二人を白く照らし続け、明石の上の太腿の裏をくすぐります。


光る君は彼女の体を仰向けに押し倒したまま、ゆっくりと自分の体を離し、膝立ちになった。


「……見せてくれ」


低く、掠れた声で命じる。

明石の上は恥じらいながらも、震える膝をさらに開いた。

乱れた衣の隙間に、月光が静かに入り込み、さきほどまでの熱の名残を、白く淡く浮かび上がらせる。


太腿の内側はまだ火照り、柔らかな肌には、二人の熱が触れていた証のような、しっとりとした光沢が宿っていた。

冷たい潮風に撫でられるたび、その肌はびくりと震え、つい先ほどまで押し隠せずにいた乱れを思い出させる。


光る君は指先でその跡をそっとなぞり、指についたわずかな湿りを確かめると、戯れるように明石の上の唇へと触れさせた。


「自分の今の顔と……この夜の熱を、ちゃんと覚えておくんだよ」


彼女は目を閉じ、小さく舌先でその指を受け入れる。

海の塩気と、火照った身体の匂いが混じり合い、自らのあまりにあらわな有様を思い知らされて、頬が熱くなる。


光る君は満足げに笑い、今度は彼女の足首を掴んで肩に担いだ。

膝が胸に押しつけられ、細い脚の内側がすべて月光にさらされる。

波打ち際の白い砂と、乱れた衣と、白い肌。

夜の海辺に浮かぶその姿は、どこか現実味を失った絵巻物の一場面のようだった。


「ここが、俺をこんなに狂わせた場所だ」


低く呟きながら、光る君はそっと彼女の内側へ指を近づける。

まだ熱を宿した柔らかな感触が指先を迎え、触れただけで、波の下でざわめく水面のように、かすかな震えが伝わってきた。


「あっ……もう、だめ……敏感すぎて……」


明石の上は首を振り、涙を零す。

けれど腰は正直に、逃げるどころか、触れる指先を追うように小さく震え、揺れてしまう。


光る君は、いたずらを宥めるような声音で彼女の名を呼びながら、

すべてを暴くでもなく、あくまでそっと撫でるだけにとどめる。

それでも、浅く張りつめていた息は一気にほどけ、胸の奥から甘い吐息がこぼれ、波の音に紛れて夜気へと消えていく。

明石の上は背を弓なりに反らし、波間に溶けてしまいそうな声を漏らした。


「ほら、また……波の高みへ攫われそうだ」


言葉と同時に、光る君はふっと手を離し、彼女の足をそっと下ろした。

明石の上の体がびくんと大きく震え、全身がひときわ強く熱を帯びる。

月光が濡れた肌をきらりと照らし、押し殺しきれなかった甲高い声が、夜の海へと掠れて消えていった。


彼女が震えの余韻に呑まれているのを見届けてから、光る君はゆっくりと再び彼女の上へと身を重ねる。


先ほどまで結ばれていた場所に、自分の熱をそっと寄せる。

一度、波の頂を知ってしまったあとの柔らかな体は、触れられただけでまた小さく震え始めた。


「まだ……そばにいたいか?」

「……いたい……です」


明石の上は涙声で答える。


「君……もっと……」


光る君は、彼女の身体を包み込むように腕をまわし、そのまま深く抱き寄せた。

再び交わる瞬間そのものは、波のざわめきと、互いの熱い吐息にそっと紛れさせる。

胸と胸が重なり、鼓動と鼓動がぶつかり合い、明石の上の喉から、抑えきれない声がふっと漏れ出す。


今度はゆっくりとした動きではなく、長く堪えていた想いがあふれるように、強く。

波の音を掻き消すほどに、互いの身体がぴたりと重なり合う気配が響く。

光る君は彼女の腰を両腕で支え、荒い息を吐きながら、その身を離すまいと抱きしめ続けた。


「ここか……ここが、欲しかったのだろう」


耳もとで囁くように言いながら、わずかに角度を変えて、明石の上の心の奥に触れようとする。

そのたびに彼女は目を見開き、涙を流しながら嬌声を上げた。


「あぁっ……そこ、そこです……!」


波打つ海と重なり合うように、二人の体温もまた高まり続ける。

光る君はさらに強く彼女を抱き寄せ、その肩先や耳たぶに口づけを落としながら、彼女だけを確かめるように、すべての意識を明石の上ひとりに注いだ。


その瞬間、明石の上の体がびくりと硬直し、内側の震えが一気に高まり、彼女は波頭が砕け散るような感覚に呑まれて行く。

喉の奥で言葉にならない声が震え、指先が白い砂をぎゅっと掴んだ。


「明石……!受け取れ……全部……!」


堪えていたものがついに決壊したように、光る君の熱も限界を迎えた。

胸の奥から押し寄せる熱が、一気に彼女へと流れ込んで行くような感覚に包まれる。

明石の上は声を失い、ただびくびくと体を震わせた。

互いの鼓動が重なり合うたび、二人の体温はさらに深く溶け合って行く。


ちょうどその時、大きな波が寄せ、二人の体を冷たい海水で包み込んだ。

火照った身体に触れたその冷たさに、明石の上は小さく身をすくめる。

光る君は彼女を抱きしめ直し、肩口に顔を埋めながら、荒い息を吐いた。


月は静かに沈み始め、海はすべてを飲み込んで朝を待っていた。

やがて砂浜に残るのは、二人が寄り添って横たわっていたかすかな痕跡と、波に消えて行く乱れた足跡だけだったのです。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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