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【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第十五帖 明石

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明石②

薄紅の几帳の向こうで、女房たちは静かに膳を整える。

湯気の立つ汁物、香り豊かな煮物、冬の冷えた身体に沁みるものばかり。

炭の香ばしさと雅な出汁の香りが、夜の空気に溶けていった。


「あなた……こちらへ。お隣に」


紫の上が袖を引くと、光る君は穏やかに微笑み、自然と紫の上の隣へ座る。

向かい合うのではなく、肩が触れるか触れないかの距離――

夫婦となってからというもの、いつの間にかそれが二人の定位置になっていた。


紫の上が箸を取ると、光る君はその手元を優しく眺め、

柔らかい声で言う。


「紫。まずはあなたが食べるところを見せて。

あなたが美味しいと感じる顔が、一番のご馳走だから」


頬を染めたまま器を手に取り、紫の上が小さく口をつけると、

光る君は満足げに頷き、その器をそっと奪うように受け取って、蓮の煮物を一つ摘まみ、紫の上の唇へ運んだ。


「……あなた?これは……?」

「俺の手から、食べてほしい」


紫の上は恥ずかしさに目を伏せるが、愛を拒むことはない。

そっと唇を開くと、光る君の指先が触れるか触れないか――

その絶妙な距離で蓮の実が滑り込み、紫の上の頬はふわりと紅を増す。

まるで雪の中でひときわ赤く咲いた梅の蕾のように。


光る君はその従順で愛らしい反応に満足したのか、今度は自分の器からひとつ摘んで口に運び、今度は自分の器からひとつ摘んで口に運び、微笑みながら言う。


「美味しい。あなたも、もっと食べなさい」


紫の上は少しだけ迷うように光る君を見上げ、その視線に満たされるように柔らかく微笑みます。

その微笑みこそが、光る君の魂を震わせるのです。


「紫……もっと近くに。

もう、この夜の闇が明けても、離したくなくて」


低く甘い声が耳へ溶け込むように囁かれ、紫の上は胸の奥がきゅうっと震えました。


「……あなた。もっと……もっと近くに行っても?」


そっと額を光る君の胸に寄せ、細い指で衣の端をたどるように触れながら問いかける。

その声音には、甘さと羞じらいと、『離れたくない』という愛の切実さが滲んでいる。


「もちろん。どんなに近くても……足りないくらいだ」


光る君はその手をそっと握り、指先で柔らかく撫でました。

紫の上はふわりと微笑み、目を細め、柔らかな光を灯すと、

ふたつの膳を挟んだ距離は、いつしか二人の膝が触れるほどの近さとなり、あたたかな湯気と火鉢の赤が、夫婦の愛の炎のように、夫婦をそっと包み込みました。


しんしんと降る雪音を背景に、二人の夕餉は、甘く、静かに、

誰にも侵されない夫婦の時間として積み重なっていくのです。それは、

女三の宮の噂など、遥か遠くへ押しやる、確かな愛の事実でした。


夕餉を終え、女房たちが静かに器を下げられると、火鉢には新しい炭がくべられ、ぱちり、と愛の火花のように音を立てて明るい火花が散りました。


紫の上は、その赤い光に照らされながら、衣の裾を丁寧に整える光る君をそっと見つめます。


「……あなた。この雪、まだ降り続いているのですね。

外の世界は、もう何も見えないかしら」

「今夜は冷えてるから、もう少し近くに」


光る君が手を伸ばすと、紫の上はふわりとその手に吸い寄せられ、自然と肩が触れ合うほど近づきます。

その距離こそが、二人にとっての安息の場所でした。


「寒くはありませんか?あなたの身体の芯まで冷えていないか」

「……あなたが隣にいてくださるのですもの。それだけで暖かくて」


光る君が問いかけると、紫の上は首を横に振り、静かに囁きました。

その声に、光る君は満たされたように目を細めます。

柔らかな襟元へ手を添え、紫の上をそっと抱き寄せ、頭を自分の肩に預けさせました。

この瞬間、彼の心から、すべての不安が消えました。


「紫……もっと近くに。もう、この夜の闇が明けても、離したくなくて」

「……あなた、もっと……もっと近くに行っても?」


紫の上は、光る君の胸にそっと額を寄せ、指先で衣の端を愛おしそうにつまみながら、かすかに震える声で返します。

火鉢の熱がほのかに頬を染め、外の雪音が遠くで静かに降り積もる中、時間がまるで止まったようにゆっくりと流れてゆく。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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