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【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第十五帖 明石

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明石①

挿絵(By みてみん)

女三の宮の降嫁拒否――

この話は瞬く間に宮中を駆け巡り、風よりも早く、尾ひれをつけて広まっていく。


『光る君は女三の宮と恋仲らしい』

『女三の宮はすでに懐妊しているのでは』

『女三の宮より紫の上を選んだらしい』


その噂は、甘い愛とともに『危機』の影を孕みながら、

当然のように紫の上の耳にも届くのです。


心の奥に、長く忘れていたはずの痛みと予感が、そっと、

しかし確実に蘇るのであった。


外では、しんしんと雪が降りはじめ、女房が慌てて蔀戸を閉じると、火鉢にくべられた上質な炭が、時折ぱち、と崩れる音を立てる。

雪の静寂の中で、その小さな音だけが幾帳の内にやさしく響いていた。

紫の上は薄絹の袖に包まれ、火鉢の温もりで染まった頬のまま、ゆっくりと舞い落ちる雪を眺めている。


「殿は……いつごろお戻りかしら。

夕餉は温かいものにしましょうか。

汁物は、もう少し熱く……」


「承りました。厨房へそのように。

この雪では、お早めにお戻りになればよいのですが」


今朝も、昨日も、その前も。

妻となってからというもの、光る君は一日たりとも紫の上と夜を別にすることがなかった。

夏の夜の暑さも、冬の夜の冷たさすらも関係なく、互いの温もりを求めあって眠る日々。


昼すら離れていれば文が届き、返事を待つ間もなく情熱的な歌が届き、四季折々の花、香、衣……

そのどれ一つとして絶えることはない。


――愛されている。これ以上ないほどに。


私は大丈夫。

あの噂など、きっと届かない。


雪が積もるように、紫の上は自らの胸に何度も言い聞かせる。


「……私ね、不思議となにも不安じゃないの」


誰にも向けない小さな声は、雪の気配に吸い込まれるように消えた。


しばらくして、雪を踏みしめる重く、確かな音が、遠くから静かに近づいてまいります。

几帳の向こうで女房が立ち上がり、期待を込めて囁いた。


「……殿、お邸にお戻りです。門をお通りになりました」


蔀戸の向こう、雪を払う仕草とともに、白い吐息を散らしながら光る君の姿が現れる。

雪の中を歩いたせいか、頬も指先も驚くほど冷えている。

その冷たさは、まるで昼の宮中の空気までも帯びてきたようだった。


「あなた……そんなに冷えて……。早く、火鉢のそばへ」


思わず駆け寄った紫の上は、その頬にそっと両手を添えた。

触れた指先は火鉢の温もりを宿していて、その瞬間、光る君はふっと息を漏らして目を閉じます。


「……紫。あなたの手は、本当にあたたかい……。

宮中での冷たさが、全部溶けていくみたいだ」


紫の上は安堵したように微笑み、光る君の髪に積もった雪を片手で払い落としてくれます。


「寒かったでしょう。夕餉は、熱いものをご用意させてあるの。すぐに温まりまって」

「嬉しいよ。あなたのいる家へ帰ると……

外の世界の厳しさも、寒さも、本当に忘れてしまいそうだ」


その声音に、紫の上の胸が、じんわりと甘く疼くばかり。

ぱちり、と火鉢が弾け、揺れる灯りが二人の影を重ね合わせ、近づいた距離は、もはや誰にも割り込ませられない確かなものでした。


「紫の顔を見るだけで、こんなに安心するなんて」

「あなた……」


光る君は紫の上の手をそっと握り、胸元へ引き寄せる。

衣越しに伝わる熱い鼓動が、まるで愛を直接聞かせるようで、

紫の上の声はかすかに震えた。

それは不安ではなく、胸が愛でいっぱいになってしまう幸福の震えだった。


光る君はその細い指先へ、感謝とも独占ともつかぬ愛を込めて唇を寄せる。


「今夜は……あなたと静かに過ごしたい。

雪の夜は、あなたと寄り添うのが一番あたたかい」


囁きだけで、紫の上の頬はほのかに赤くなり、雪灯りに照らされたように柔らかく輝くのです。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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