藤裏葉①
几帳の内はまだ二人の余熱と淡い香を残し、紫の上はゆっくりと瞼を震わせて開いた。
身を起こそうとした、その瞬間。
「あ……っ」
じん、と腿の付け根から腰にまで甘い疼きが走り、紫の上は思わず布を握りしめて身を縮めた。
光る君はそのわずかな動きを、一瞬で捉える。
「紫。無理はしないように。痛む?」
「……すこし……だけで……」
「少しじゃない顔だ。ほら、横になって」
壊れ物のようにそっと抱き起こされる腕があまりにも優しく、紫の上は恥ずかしさで耳まで紅に染まる。
昨夜の熱がふっと蘇り、胸の奥がまた甘く震える。
光る君は肩まで布を掛け直し、紫の上の髪を指でそっと梳く。
「すまないね。加減ができず……優しさが足りなかった」
「そんな……私は、嬉しかったから……」
その囁きは、涙にも似た幸福を含み、光る君の胸に激しい熱がこみ上げる。
「紫。今日は、あなたの世話は全部、俺がするよ」
「そん、なっ……おにいさまのお手を煩わせるなど……」
「それが妻を労わる務めだよ。
この三日籠りの間だけの……俺の特権だ」
「嬉しい……けれど……恥ずかしすぎて……」
「恥ずかしい?」
紫の上の肩がぴくりと跳ねる。
「……な、なにを……やめて……」
「昨夜の紫のことなら……朝までだって語れるけど?」
「~~っ!!」
顔を真っ赤にし、布団に潜り込む紫の上。
光る君はその震える肩をそっと抱き寄せ、甘く囁く。
「そんなに可愛いのに……誰に自慢すればいい?」
「っ……おにいさま……っ!」
羞恥も痛みも、幸福も、胸の奥の甘さも。
すべてが、初めてを迎えた朝の証のように、几帳の内側に静かに溶けていった。
布団に潜り込もうとした紫の上を、光る君がそっと抱き寄せた。
「逃げても無駄だよ。今日も一日……紫をこの腕から離すつもりはないから」
「……っ……そんな……は、離れたいわけでは……」
かすかな声が胸の奥に触れると、光る君はその一言を宝物のように噛みしめ、静かに瞳を閉じた。
それからの数刻――
紫の上は光る君の腕の中で眠ったり目覚めたりを繰り返し、
痛むところには清らかな香油をそっと指で塗られ、冷えぬように布をかけ直され、一口ずつ食事を口元へ運ばれる。
紫の上が少しでも身を起こそうとすると、
「だめ。横になっていなさい。今だけは……
夫の俺に全部、甘えて」
その声音は優しさで満ちていながら一切の逃げ道がなく、
紫の上は声にならない頷きで従うしかなかった。
やがて、日暮れ前。
紫の上がそっと囁く。
「おにいさま……今日、一日中、ずっとそばにいてくれて……幸せで……」
「紫。幸せに『したい』のではない。
幸せに『し合いたい』んだ、あなたとは」
「……し合い……?」
「そう。あなたがくれた愛のぶんだけ……
いや、それ以上に。全部、返したい」
光る君が紫の上の指を一つずつ丁寧に開いていくと、紫の上の瞳が涙で潤む。
唇が震え、小さな手が光る君の衣を、ぎゅっと掴んだ。
「……では……もう少し……このまま……そばに……」
「うん。明日の朝も……その先も。
俺の命が尽きるまで、全部あなたのそばにいる」
夕映えが几帳を淡い紅に染める中、ふたりは静かに寄り添い続けた。
――そして夜。
几帳の内は灯火の橙に満ち、紫の上はまつげを震わせながら、
光る君の肩へさらに深く身を寄せた。
痛みは残るはずなのに、光る君の腕に抱かれると、その痛みすら甘い思い出の続きのように感じられる。
こうして、『三日籠り』の二日目は、献身と涙と溺れるような甘さに包まれて、静かに過ぎていった――。
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