少女②
「……はぁぁぁぁ……よかった。本当に、よかった……」
「おにいさま!?」
「断られたら……今度こそ、生きていけないと思った……」
「だめ……そんなこと言わないで……!」
たったそれだけで、紫の上は不安で目を潤ませ、光る君の胸にすがるように抱きつく。
細い身体の重みと温もりを胸に感じながら、光る君は、その頭に指を絡めるように撫で、目元へそっと唇を落とした。
「大丈夫。紫。二度とあなたを一人にしない。
この命にかけて、約束する」
「本当……?」
「もちろん。永遠に。ずっと一緒に」
あぁ。
なんと眩しい笑顔だろう。
満開の花のように輝くその表情こそ、紫の上の真の美しさがより際立つのに。
過去の己はどうして、その姿を見ようとしなかったのか。
病の儚さを美しいなどと、なぜ思い込んでいたのか。
紫の上を抱きしめながら、光る君は、ようやく自分自身の愚かさから解放されていく。
そして、紫の命の温もりを胸いっぱいに抱き締めながら、
愛しい未来の道標を手にした安堵の中、二人は静かに、同じ温もりを分け合いながら眠りへと落ちていったのです。
藤の房が、柔らかな春の風に揺れるたび、夜露を含んだほのかな香が庭一面を包み込む。
その香は、北山の麓で初めて紫の上と出会ったあの日——
運命の糸が静かに結ばれた瞬間の、忘れがたい風の匂いを思い起こさせた。
「……紫。やっと、十八の春を迎えてくれたね」
帝・桐壺院より正式に下賜された牛車が、今日のためだけに清められた簀子の前に音もなく止まる。
薄紫の几帳越しに見える光る君は、威厳をまといながらも、
どうしようもなく優しく、愛に満ちた眼差しでそっと手を差し伸べた。
「迎えに来たよ。
今日この瞬間から、あなたは——俺の『北の方』だ」
紫の上の胸が、小鳥のようにふるりと震えた。
熱にうなされながら願い続け、魂の奥底で渇望し続けた、
長い長い祈りが、ようやく結実する日。
「……おにいさま。本当に……私が……?」
「本当に、だよ。あなたが望むものは、すべて——
俺がこれからあなただけに捧げるよ」
声音は柔らかいが、その奥にひと欠片の迷いもない。
六条御息所の祟りと紫の上の告白によって、光る君はようやく『奪うだけの愛』を捨てたのです。
紫の上の小さく華奢な手が、そっと光る君の掌に触れる。
触れた瞬間、世界から守るように大切に包み込まれ、その頬が藤の花よりも深く紅に染まる。
その横顔が美しすぎて、光る君は呼吸すら忘れてしまうほど見惚れた。
牛車が恭しく進むと、屋敷中の女房たちの息を呑むささやきが聞こえる。
「まあ……あの光る君が……」
「ついに正式に北の方を……」
だが光る君は、世間のざわめきなど一切気に留めない。
ただ、隣に座る紫の上の指先を、愛の証のようにそっと握り続けた。
「寒くない?今宵は風が冷える」
「……大丈夫。おにいさまの側ですもの」
藤の房のように、紫の上の心がゆっくりほころんでいく。
厳かな参入の儀が終わり、寝所へと入ると、光る君は自らの手で、紫の上の長く美しい髪に櫛を通した。
「……美しいな。あの日の藤の花のように。
そして——十八のあなたは、こんなにも」
「おにいさま……そんなふうに見つめられたら……
緊張してしまいます……」
紫の上の瞳がゆっくりと雫で満ちる。
涙は悲しみではなく、長く願い続けた幸福が溢れ出す証だったのです。
光る君はその肩ごとそっと抱き寄せ、額に、頬に、運命をそっと包むように口づけを落とす。
「紫。どうか信じてほしい。
俺は今日、この魂すべてをあなたに捧ぐと誓う」
「……はい。私も……生涯の愛を、お捧げします」
紫の上は、胸の奥から熱が噴き出すようにあふれ、そっと光る君の胸に顔をうずめた。
藤の香が満ちる春の夜、過去の痛みも、祟りも、忌まわしい未来もすべて越えて——
二人の『新しい生』が、永遠の契りと共に静かに幕を開けたのです。
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