表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第十二帖 少女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/68

少女①

挿絵(By みてみん)

あの、最期。

泣くように、懇願するように『出家させて欲しい』と呟きながら、病に弱り、その輝きを失っていく紫の上。

それでも、その儚い姿すら、己の情欲のままに美しく、

愛しく、手放すことができずに。

琴の糸が切れるその瞬間まで、己の腕の中で、自分の手元に縛り付けていたのです。


——それが、俺の『愛』だと、本気で思っていたのか。


光る君の全身に、耐えがたい自責の念が、津波のように押し寄せ、額から、熱い悔恨の汗が流れました。


その時。


「おにいさま……ずっと、朝まで抱きしめていてくれたの?」


熱が去り、朝の光のように澄んだ、あの柔らかな紫の上の声が、奇跡のように耳に触れました。


胸の奥の深いところで、何かが静かに崩れ落ち、そして、

救われるように満たされてゆく。


光る君は、震える手で紫の上の頬へ触れ——

ただ、その存在がそこにあるという奇跡だけで、あまりにも強く息を吸い込んだ。


あぁ——起きてしまった。


いけない。この娘は、本来なら悲劇へと向かう運命を背負っている。

今こそ、手放し、自由にすべきなのだ。

そう思っているはずなのに、腕が、手が、どうしても紫の上の温もりを手放そうとしない。

抱きしめた腕は固く、まるで己の意思では動かせず、紫の上を胸から離すことなどできなかった。


——この腕だけは、もう二度と、紫を放せない。


熱の引いた頬に涙が落ち、光る君はその温度の差に胸を詰まらせながら、新たな決意を胸に刻みました。

そして、晴れやかさを取り戻した紫の瞳に触れた瞬間、

張りつめていた息がふっと抜け、安堵の吐息が漏れる。


「紫……あなたも、もう御年は十七だね。

覚えているかな?初めて出会った時。

庭の藤の花が満開だったのを」

「なぁに、おにいさま。忘れるわけないじゃない」


クスクス、と。

春の野辺に響く小鳥の囀りのような、可憐で清らかな笑い声が、紫の上から聞こえてきます。

あぁ、この声を、永遠に聞いていたい。

そう思わせるには十分すぎるくらい、この世の宝のような愛らしい声です。


その音色を聞くだけで、光る君は、己が背負ってきた罪が少しづつ洗い流されていくような、そんな感覚に包まれました。



「次の藤の花が、再びこの京で満開になる頃。

俺の北の方になってくれないかな」


囀りのように軽やかだった紫の声が、ぴたりと止まります。


ずっと、ずっと心の深くで願ってきたこと。

昨夜、命を削って吐き出した唯一の願い。

光る君の情愛を信じたいのに、確信が持てず、身分差を思って問いただす勇気も出せなかった——あの渇望。


「おにいさま……今、何を……」

「紫。俺は今、生まれて初めて、あなたの口から出る答えを聞くのが怖いんだ。

だから、どうか言葉はいらない、頷いて欲しい」


抱き寄せる腕は、これまでで一番強く震えていた。

守るためか、願うためか、誓うためか。

その指先は、冷たい水に触れたように細かく震え、胸元から伝わる鼓動は早鐘のように激しい。


紫の上も、つられるように耳まで灼けるように熱くなる。

この世で最も優雅で、常に余裕に満ちているはずのおにいさまが、どんな顔をしているのだろう。


そっと視線を上げた紫の目に映ったのは——

まるで童のように頬を赤く染め、瞳をぎゅっと閉じ、愛しさと怖れに揺れる、初めて見る表情だったのです。


こんな顔を見せるのは、この世で自分だけ。

その事実が胸に落ちた瞬間、歓喜とは別に、どうしようもなく愛おしく、守ってあげたいという感情が、鋭く湧き上がるのです。


瞳の奥が熱を帯び、視界が徐々に滲み始めます。


そして紫の上は、小さく、けれど確かに——

二度、三度と頷く。


その瞬間。


光る君は、抱きしめたまま後ろへ倒れ込んでしまいます。

すべての緊張が切れ、全身から力が抜けたかのように。

ブックマーク、☆☆☆☆☆、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ