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【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第十一帖 幻

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幻③

熱に喘ぎながら、紫の上は震える声で言葉を絞り出した。


「あなたも、私と同じ……なのですね。

あの方を……愛してるんですね……」


同じ人を愛し。

その愛ゆえに嫉妬をし。

高すぎる自尊心ゆえに想いを殺し。

素直になれず。けれども、愛して欲しくて、己のすべてで独占したくてたまらない。


ただただ、あの方、光る君の前では、誰よりも美しく、誰よりもふさわしくありたくて。


胸の奥に閉じ込めていた願いが、死の淵で堰を切ったように溢れ出す。

今、この魂が肉体から離れる前に言葉にしなければ、きっと一生口にすることはないであろう、秘めていた、言えなかった思いの丈を。


「でも私は……おにいさまと……夫婦の契りを結びたい……

死ぬまでずっと……そばにいたい……御子を授かりたい……

今度こそ、おにいさまの『いちばん』でいたいのです!」


それは、時を遡る前の紫の上が、最期の間際ですら決して言えなかった願い。

けれど、もしこの熱が命を奪うのなら——

たった一度だけ、本音のすべてを伝えたい。

その想いが、魂そのままの姿でこぼれた。


その無垢で切実な、命懸けの告白を聞いた六条(ろくじょうの)御息所(みやすどころ)は、

長い、長い時をかけて目を伏せ、小さい声で、自嘲するように、つぶやきました。

その声音は、自嘲とも安堵ともつかぬ、壊れそうなほど優しい響き。


「……そう……あなたは、それを言えるのね。

言っても……あの方に選ばれる女だから」


六条(ろくじょうの)御息所(みやすどころ)が嫉妬していたのは、紫の上の美しさや若さではなく、素直に、愛をそのまま言葉にできた自分自身ではなかったのです。

光る君のそばに立てる権威でも、家柄でも、若さでもなく……

ただ……あの夜、あの方の腕の中で、言えなかった想い。


その敗北を悟るように、御息所は儚く笑った。


紫の上は、汗に濡れた身体のまま息を震わせながら、言葉を返した。


「……私は、選ばれたわけではありません……

誰かに選んでほしいわけではないのです」

「え……?」


紫の上は、朧な意識の中でも、確かな想いだけは揺るがずに言った。


「おにいさまを……私が選んだのです」


初めて、自らの傲慢さの根源にはっとしました。

『愛されたい女』ではなく、『愛することを選ぶ女』——

その在り方の違いが、怨念と魂を分ける決定的な差であった。


御息所は、ほんのわずか、痛みに似た呼吸をこぼした。


そしてその眼差しは、いつしか紫を見る光を失い、

どこか遠く、愛してしまった男の面影を追うように滲んでいた——。


紫の上の『自ら愛を選ぶ』という言葉を聞き、

六条(ろくじょうの)御息所(みやすどころ)は、生まれて初めて、自身の傲慢の根そのものに気づいたのです。


——自分は、愛する前に、愛されることを求めていた。

——選びたいよりも、選ばれたいと願っていた。


自らの足で想いを掴みに行く、この若く清らかな娘の圧倒的な強さ。

自分は、この子のように、最後の瞬間であったとしても、この一言を言えるだろうか。


素直になれず、愛を伝える勇気すら持てず、いつだって自尊心ばかりが前に立ちふさがり、『他の若い女とは違う』と示すことに必死になるばかり。


張り合い、意地を張り、優位を装うことでしか心を守れなかった——

その浅はかさが胸にせり上がってくる。


六条(ろくじょうの)御息所(みやすどころ)は、紫の頬に冷たい指先をそっと添え、憎しみではなく、静かで深い諦観の色を宿した瞳で囁いた。


「……あなたのことは——もう、呪ってあげない」


その声音には、女の愛と矜持が最後に保てるかたちが、

かすかに揺れていた。


背を向け、歩き始めた御息所の影は、

夜霧のように薄れ、形を失い、静かに溶けていく。

その姿には、敗北ではなく、ようやく愛を手放せた者の沈痛な美しさがあった。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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