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【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第十一帖 幻

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幻①

挿絵(By みてみん)

遠い伊勢の地——。

伊勢に下向していた六条(ろくじょうの)御息所(みやすどころ)は、清浄な社に寄り添う寝所で、夢と現の狭間をゆらゆらと漂っていた。

ふいに目を覚ましたとき、自らの掌に、見覚えのない細い女の髪が一本、まるで小さな蛇のように絡みついていることに気が付きます。


それは漆黒で、絹糸のようにしなやか。

つい先ほど御息所自身が梳いた髪とは明らかに異なる。


六条(ろくじょうの)御息所(みやすどころ)は、恐ろしいほど静かな無表情でつぶやいた。


「……また……わたくしの情が、夢の続きを見せたのか?」


その声には、不思議な喜びが微かに宿っていた。

伊勢に来てから、あれほど静まっていたはずの煩わしい夢。

あの方のそばにいる女——

かつて葵の上の魂を乱したように、また自分を遠ざける、清らかな存在。


その清澄さに向けられた揺れ動く憎悪が、形を変え、ふたたび怨念を生みつつあることに、御息所はまだ気がつかない。


それは、自らの中に残っていた『消えきらない情念の残り火』が、無自覚のまま光る君の愛の標的——

紫の上へ、細い指を伸ばし始めている証でもあった。




朝の光が満ちる二条院。

背後に立つ白い影。

風もないのに揺れた御簾。

床に点々と残された湿った足跡。


そのすべてが、まるで泡のように消え去ったあとも、紫の上の胸の奥には、氷の破片のように冷たい、得体の知れぬざわめきが残っておりました。


「姫様、本日は御身が優れぬご様子……

無理をなさらずお休みになられた方が……」


女房たちに促されるまま、紫の上は心身の疲れを覚えながら寝所へ下がる。

安らぎの眠りにつこうと目を閉じた、その時——

胸の奥で、説明のつかぬ異変が起こった。


……おかしい。寒気ではないのに……身体が……熱い……


衾の中で、熱がじわりと肌の奥から滲むように立ち上る。

それは高熱の悪寒とも、炎のような発熱とも違う。


胸の奥に、じり、と火種が灯るような妙な熱が据わり、

呼吸をするたび、覚えのない冷たく湿った香が鼻の奥に燻って残る。


……どうして。あの影を見てから……

身体が、自分のものではないみたい……


額に手を当てると、その一点からゆらりと熱が広がり、

まるで水面に落ちた小石が波紋をつくるように、身体の奥へ伝わっていく。


異変に気づいた女房が駆け寄り、紫の上の顔色を見て蒼白になり、息を呑み、心配そうに伝えます。


「姫様、これは……ただの風邪の熱ではございません」

「……熱……?」


紫の上は、自身に起きていることが信じられないように、ゆるやかに首をかしげる。


「いつもより少し……胸のあたりが……

苦しいような……息が詰まるような……」


女房は恐怖でさらに青ざめ、震える声で告げた。


「姫様、それは……物の怪の祟りに触れた方が、

初めに覚える胸の熱と申します……」

「祟り……?」


その言葉を聞いた紫の上の指先が、細かく止めどなく震えだします。


「私……なにか……御心を乱すような、いけないことを?」

「いいえ、姫様。決して。

ただ……姫様がこの上なく清らかでいらっしゃるからこそ、

俗世の情念を宿した物の怪が強く惹きつけられ、

近づきやすいのでございます」


そう言われても、己の無垢さが『呪いの源』であるという理不尽は理解できず、紫の上は胸の前で袖をぎゅっと握りしめることしかできません。


その時——。

寝所の御簾が、かすかに、悲鳴のような音を立てて鳴った。

風の気配ではない。誰かがそこに『立っている』。

冷たく、ひどく濃い、確かな気配。


紫の上は恐怖に身体を硬直させ、指一本動かせなかった。


……また……あの、黒い影……?

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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