表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第十帖 常夏

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/68

常夏③

もう何御でしょう。この紫の上のこの可愛らしい誘う仕草は。


……また……理性を試すように。

あの夜と同じ、こんなにも無垢な誘いを——。


光る君は、腹の底にじわりと熱が広がるのを感じながら、

足が鉛のように重くなるのを悟りつつ、ゆっくりと近づく。


光る君が布団へ入ろうとした瞬間、紫の上は迷いなどひとかけらもなく、その袖をきゅっとつまんで引き寄せた。

かつては躊躇していたはずなのに、もうこの人には甘えてもよいのだと、その身が覚えてしまったのです。


光る君は、理性が危険なほど揺らぎ、思わず息を呑む。

布団へ入った途端、紫の上は水が器に収まるような仕草で、

光る君の胸元へ身体を預けてきます。


それは甘える仕草を越えて——

柔らかい身体を無防備に、隙間なく押し付けてきます。

それはまるで、自らの存在を彼の熱の中へ、積極的に溶かしにいくように、激しい求め方だったのです。


光る君の背筋に、ぞくりと身を焦がす熱が走ります。


「紫。今日は……ずいぶん積極的だね」

「おにいさま……私は、おそばにいたいの。ずっと……」


光る君の胸に顔を埋めながら、か細くも切実な声。

ぎゅっと衣をつかむ紫の上の腕の力だけで、光る君の理性は、

潮風にさらされた木造のように大きく軋む。


……いけない……。

このままでは、俺の誓いが——。


紫の上の朝露のように柔らかな髪が頬へ触れ、細い肩が胸板にぴたりと沿うそうに、その無垢な温もりがじわじわと、体の奥深くへ侵していく。


紫の上は、己が強烈に放っている無防備すぎる可愛らしさが、

光る君を極限まで追い詰めているとは露ほども知らず、囁く。


「……おにいさまの腕の中……

こんなにも心が満たされて……好き……」


光る君は、もう、この愛らしい顔を見てはいられない。

見続ければ、理性など保てるはずがない。

だから、強い決意をもって——

目を閉じるしかなかったのです。


……紫……。

その純粋な言葉で、俺の何を試すつもりだ。

それ以上、真実を口にしてはならない——。


しかし紫の上は、止める者のいない愛の確信を胸に、なおも続けるのです。


「おにいさまは……私を誰よりも大切にしてくださるから。

もっと、もっと……前より深く、おそばにいたくなるの……」


『もっと深く』——

その一言に、光る君の心臓は激しく跳ね上がり、熱と同時に凄まじい所有欲が閃く。

すぐにでも抱き寄せ、すべて受け入れてしまいたい衝動が噴き上がり、唸るような息で押しとどめながら、震える唇で返します。


「紫……その言葉は危ないな。

俺は、この場であなたを抱いてしまいそうだ……」


紫の上は、その言葉に潜む切実な意味を、女性の勘としてうっすらと悟ったのだろう。

頬を真っ赤に染め、それでも光る君の胸に顔を沈めるのです。


「また、抱いてくれても……私は……」

「だめだ。まだ、その時ではない。

本当に大切にしたいからこそ……今は抱かない」


光る君の声はそこで詰まり、続きは喉奥で震えたまま音にならない。

光る君は彼女の細い肩にそっと手を添え、淡い期待ごと抱きしめそうになる衝動を食い止めるように、その華奢な身を静かに押しとどめた。


紫の上は、一瞬だけ切なげに目を伏せたものの、光る君の声に宿る深い想いと強い自制を感じ取って、静かに頷く。

そして、その胸へさらに深く身を寄せ、満たされた安堵のまま眠りへと落ちていった。


光る君は、自らを苛む抱きしめたい衝動と戦いながら、祈るようにその髪を撫でる。


……紫。

あなたがあまりに、あまりに可愛らしく求めてくれるから。

俺のこの理性が、いつまで耐えられるか……

もう、わからなくなりそうだ……。


その夜、光る君が自らに課した我慢は極限まで張りつめ、

鋼の鎖がぎりぎりと軋ませ、胸を締めつけ続けた。

ブックマーク、☆☆☆☆☆、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ