常夏③
もう何御でしょう。この紫の上のこの可愛らしい誘う仕草は。
……また……理性を試すように。
あの夜と同じ、こんなにも無垢な誘いを——。
光る君は、腹の底にじわりと熱が広がるのを感じながら、
足が鉛のように重くなるのを悟りつつ、ゆっくりと近づく。
光る君が布団へ入ろうとした瞬間、紫の上は迷いなどひとかけらもなく、その袖をきゅっとつまんで引き寄せた。
かつては躊躇していたはずなのに、もうこの人には甘えてもよいのだと、その身が覚えてしまったのです。
光る君は、理性が危険なほど揺らぎ、思わず息を呑む。
布団へ入った途端、紫の上は水が器に収まるような仕草で、
光る君の胸元へ身体を預けてきます。
それは甘える仕草を越えて——
柔らかい身体を無防備に、隙間なく押し付けてきます。
それはまるで、自らの存在を彼の熱の中へ、積極的に溶かしにいくように、激しい求め方だったのです。
光る君の背筋に、ぞくりと身を焦がす熱が走ります。
「紫。今日は……ずいぶん積極的だね」
「おにいさま……私は、おそばにいたいの。ずっと……」
光る君の胸に顔を埋めながら、か細くも切実な声。
ぎゅっと衣をつかむ紫の上の腕の力だけで、光る君の理性は、
潮風にさらされた木造のように大きく軋む。
……いけない……。
このままでは、俺の誓いが——。
紫の上の朝露のように柔らかな髪が頬へ触れ、細い肩が胸板にぴたりと沿うそうに、その無垢な温もりがじわじわと、体の奥深くへ侵していく。
紫の上は、己が強烈に放っている無防備すぎる可愛らしさが、
光る君を極限まで追い詰めているとは露ほども知らず、囁く。
「……おにいさまの腕の中……
こんなにも心が満たされて……好き……」
光る君は、もう、この愛らしい顔を見てはいられない。
見続ければ、理性など保てるはずがない。
だから、強い決意をもって——
目を閉じるしかなかったのです。
……紫……。
その純粋な言葉で、俺の何を試すつもりだ。
それ以上、真実を口にしてはならない——。
しかし紫の上は、止める者のいない愛の確信を胸に、なおも続けるのです。
「おにいさまは……私を誰よりも大切にしてくださるから。
もっと、もっと……前より深く、おそばにいたくなるの……」
『もっと深く』——
その一言に、光る君の心臓は激しく跳ね上がり、熱と同時に凄まじい所有欲が閃く。
すぐにでも抱き寄せ、すべて受け入れてしまいたい衝動が噴き上がり、唸るような息で押しとどめながら、震える唇で返します。
「紫……その言葉は危ないな。
俺は、この場であなたを抱いてしまいそうだ……」
紫の上は、その言葉に潜む切実な意味を、女性の勘としてうっすらと悟ったのだろう。
頬を真っ赤に染め、それでも光る君の胸に顔を沈めるのです。
「また、抱いてくれても……私は……」
「だめだ。まだ、その時ではない。
本当に大切にしたいからこそ……今は抱かない」
光る君の声はそこで詰まり、続きは喉奥で震えたまま音にならない。
光る君は彼女の細い肩にそっと手を添え、淡い期待ごと抱きしめそうになる衝動を食い止めるように、その華奢な身を静かに押しとどめた。
紫の上は、一瞬だけ切なげに目を伏せたものの、光る君の声に宿る深い想いと強い自制を感じ取って、静かに頷く。
そして、その胸へさらに深く身を寄せ、満たされた安堵のまま眠りへと落ちていった。
光る君は、自らを苛む抱きしめたい衝動と戦いながら、祈るようにその髪を撫でる。
……紫。
あなたがあまりに、あまりに可愛らしく求めてくれるから。
俺のこの理性が、いつまで耐えられるか……
もう、わからなくなりそうだ……。
その夜、光る君が自らに課した我慢は極限まで張りつめ、
鋼の鎖がぎりぎりと軋ませ、胸を締めつけ続けた。
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