玉鬘①
朝の光が、御簾の向こうの几帳を透かし、淡い金砂のように寝所へ差し込んだ。
紫の上は、深い眠りからゆるやかに目を開けると、視界の最初に映ったのは、すぐ隣にある逞しい光る君の胸板であった。
そして、その腕が——昨夜の約束どおり、いや、それ以上に、
まるで宝物を守るような確かさで、自分を抱き寄せたまま眠っている。
——昨夜は夢ではなかった。本当に、こんなにも近くで……
そう悟った瞬間、紫の上は耳の奥まで一気に熱が昇るのを感じてしまいます。
そっと身をよじり、距離をとろうとした、そのわずかな気配。
光る君の手が、温もりを失うのを惜しむように、寝ぼけた力で彼女の背をきゅっと引き寄せる。
「あ……っ」
「……紫」
深い夢から引き戻されたような掠れた寝言。
それだけで、紫の上は胸をぎゅうっと締めつけられ、堪えきれぬほどの鼓動を感じ、思わず布団に顔を埋めて眠ったふりをしてしまいます。
……どうしよう。おにいさまの、この腕の中で、目覚めの時まで眠ってしまうなんて。
嬉しい。その幸福な事実に、心が舞い上がる。
昨夜のすべてを知られていることが、恥ずかしく、ただただ羞恥に苛まれる。
けれど、やはり心から満たされた、確かな幸せに浸っている。
胸に溢れる懐かしい感情たちが、春の水音のように絶え間なく揺れて、とめどなく胸を満たしていく。
恋を自覚した朝は、寝所の御簾越しに見える景色さえ、
世界そのものがいつもより眩しく、そして鮮やかに感じるものなのだったのです。
光る君が目覚めたのは、紫の上がそっと離れようとした拍子に、衾がふわりと揺れたときであった。
腕の中の温もりが遠ざかった気配に、光る君は即座に目を開き、そこに、布団から半身を出し、羞恥で固まっている紫の上を見つけた。
「……紫?朝からそんなに慌てて、どうしたの」
「なんでも、ないの……!
ただ……昨夜のことを思い出してしまって」
蚊の鳴くような小さな声。
湯に茹だったような頬。
その全てが、光る君の胸の奥で、大切なものを包むような温かさを広げた。
同時に——
光る君の胸の奥で、抑えていた獣じみた衝動が、ずきりと疼くのを感じました。
……危なかった。あと一刻でも理性の綱が緩んでいたら——
腕の中で眠る紫の、まるで絹のような肌の温もり。
抱き寄せたとき、折れてしまいそうなほど細い肩。
すぐ側で聞こえていた、安らぎに満ちた規則正しい呼吸。
そして、無垢なまま、安心しきって胸に頬を寄せてきた、あのいじらしい仕草。
そのひとつひとつが、光る君の心に、甘く鋭い衝動を呼び覚ますのです。
『抱いてしまいたい。このまま一つになりたい』
その危うい願望が幾度も胸を焼き、そのたびに光る君は、唇を噛み殺すように堪えようと必死に理性を抑えつけます。
紫はまだ幼い。
今焦れば、あの未来を呼び寄せてしまう——
なのに……この愛らしさに触れて、どうして心が静まっていられようか。
昨夜の自分が、どれほど綱渡りのぎりぎりで踏みとどまっていたかを思い返し、寝台の上でひっそりと天を仰いだ。
今朝の光はやけに眩しく、胸の内だけが静かに燃えていた。
一方の紫の上は、恥ずかしさという名の熱に全身を浸し、
布団の端を幼子のようにきゅっと握りしめていた。
この、いっそ罪深いまでの可愛らしさが、さらに光る君の強靭な理性さえも危機に晒してくるとは、紫の上は想像もできるはずもない。
光る君は、胸の奥に渦巻く欲望を覆い隠すように、低く抑えた声で名を呼んだ。
「……紫」
びくん、と肩を小さく震わせる紫の上。
光る君はゆっくりと近づき、頭のてっぺんにそっと手を置く。
撫でるというより、触れただけで壊れそうな宝物を確かめるように。
「……なぁに?おにいさま」
「昨夜、あなたがそばにいてくれたおかげで、
驚くほどよく眠れたよ」
その言葉だけで、紫の上は耳の先まで真っ赤に染まり、
布団に顔を埋めてしまった。
光る君は微笑みながらも、胸の内ではひたすら嵐のような葛藤を押し殺す。
……この子を救い、守るために、この過去へ時を遡るしたというのに、俺の方が先に、彼女の魅力に惑わされてどうする……しっかりしなければ。
その必死の我慢と『鋼の理性』は、紫の上には、ただただ限りなく深く優しい愛情にしか映らないのである。
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