薄雲④
「そう……わたくしの味を、舌の奥の奥まで、
一つ残らず——覚えておいてくださいませ」
囁きながら、彼女は光る君の頬を両手で包み込み、そのまま深く、息を奪うような口づけを重ねた。
絡み合う息と舌先に、熱い気配がとろりと溶け出し、
光る君の喉の奥へ、甘い痺れとなって流れ込んでゆく。
六条御息所は光る君の髪を優雅に掴みながら、細い腰をゆったりと揺らした。
そのたびに、二人のあいだに秘められた距離がわずかに縮まり、
触れてはならぬはずの場所へ、かすかな熱と震えが伝わっていく。
「あぁ……そこ……もっと……近くに……」
声が震え、知的な冷静さを失いかけたその瞬間、
六条御息所は光る君を仰向けに情熱的に押し倒した。
長く艶めく黒髪が君の顔に降りかかり、汗と香と熱の濃密な匂いが重なって、呼吸すら奪われるほどだった。
彼女はその胸へ舌を這わせ、じっくりと下へ、さらに下へ。
唇で肌の起伏をなぞり、臍のあたりをくすぐるように弄ぶと、
光る君の身体はびくりと震え、喉の奥から掠れた吐息が零れた。
——やがて、彼女はその若い熱の源へと辿りつき、
確かめるように、そっと手のひらを添えた。
「こんなに熱くして……
わたくしを、欲しておいでなのでしょう?」
囁きとともに、六条御息所は光る君の腰の上にそっと身を重ね、
自らの熱を、彼の鼓動とぴたりと重ね合わせた。
だが、すぐには一つにはならない。
ただ、境界をなぞるように、ゆっくりと身をずらし、
互いの熱を擦り合わせるように、じわじわと距離を詰めていく。
「……声にしてごらんなさい。わたくしがほしい、と」
「御息所……もう……頼む……」
掠れた声を聞いた瞬間、六条御息所はようやく腰をゆっくりと沈め始めた。
遠慮なく重ねられた熱と熱が、深く、深く一つに溶け合っていく感覚。
互いの体温が境界を失い、どこまでが誰のものなのかさえ分からなくなってゆくたび、
光る君の胸に、甘く重たい痺れがじわりと広がっていった。
六条御息所は優雅なまま、腰をゆっくりと回し始める。
浅く寄り添い、深く抱きしめるように、
内側の温もりがねっとりと絡みつき、光る君を味わい、離そうとしない。
「あぁ……っ……御息所……」
唇を熱く奪いながら、身体を重ねるたびに、
布の下で触れ合う肌が、湿った音を立てて微かに震え、
高ぶった熱が太腿を伝って、じわりと畳へと広がって行くようだった。
光る君が果てそうになるたび、六条御息所はぴたりと動きを止め、
彼を深く抱き込んだまま、細い腕でぎゅう……っと締めつけてみせる。
「まだですわ……まだ……もっと……もっと熱くして……」
「っ……うああ……!」
幾度目かの寸止めに、光る君は涙を滲ませ、その顔を見た瞬間、
六条御息所は満足げに理性を完全に手放した。
細い腰は狂おしいほどの速さで上下し、深く、深く、心の底まで抉るように、
二人の熱を重ね合わせ、肌が打ち合う湿った音が、闇の中で狂乱の調べのように響いた。
「あぁあぁ……!もっと……」
「御息所っ……!!」
光る君の胸の奥で何かが弾け、どうしようもない熱が一気に駆け上がる。
その瞬間——
六条御息所の身体もまた強く震え、
彼を深く抱きしめたまま、細かな震えに身を任せ、
二人は同じ高みへと、息を詰めるようにして昇り詰めていった。
やがて、肩で荒く息をしながら、六条御息所は疲弊したように光る君の胸に崩れ落ちた。
まだ互いの熱を深く重ねたまま、脈打つ余韻に震えながら、耳もとへ甘い蜜のような声で囁く。
「今夜はすべて……わたくしのものですわ……ふふ……」
灯りはついに消え、絶対の闇の中で、二人の身体だけが熱を保ち続ける。
絡み合う体温は醒めず、六条御息所の執念は、まだ光る君を離さない。
そして——
光る君は、過去のあの夜の残像に、額に冷や汗を浮かべながら、強く目蓋を閉じたのであった。
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