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【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第七帖 薄雲

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薄雲③

御簾が、恐れで震えるようにふるえ、篝火が不自然に伏し、

影が、孕んだ獣のように産屋の四隅から押し寄せる。


その瞬間こそ——

長い苦痛の果てに、葵の上の出産がついに幕を開いたのです。


葵の上は、眉間に深く皺を寄せ、腹を押さえ、身を折り、

生の極限に追い詰められた身体は、耐え難い痛みに弓のように反り返る。


「……あ……殿……

この子が……わたくしから……下りて……参ります……」


その声は、美しい女の最後の祈りのようであり、六条(ろくじょうの)御息所(みやすどころ)の影が見守るなかの、最初の産声への前兆でもあった。


女房たちが慌ただしく産具を整え、湯を温め、布を重ねます。

そのすべての動作が、迫りくる悲劇の怯えに支配されます。


篝火が、嵐でも来たかのようにゆらりと揺れ、

産屋の隅に溜まる『影』は、夜の底そのもののように濃く沈んで行く。


光る君は、死人の肌のように冷たくなった葵の上の手を、

決して離すまいと固く握りしめ、声にならぬ声で、ひたすら名を呼び続けた。


「葵……葵……ここにいる。気を強く持つのだ……!」


しかし、死と痛みの淵にあるはずの葵の上が、ふと、諦念と安堵を併せ持つ、あまりに美しい微笑を浮かべたのです。


震える指で光る君の頬をかすめ、涙と汗に濡れたその肌に触れた瞬間——

産屋の空気が急にざわりと、魂が抜けるような音を立てます。


次の瞬間、腹の奥で命の重みが、堰を切った大河のように押し広がるのを感じると、女房たちが一斉に産床へ駆け寄ります。


「御子様が……!いま……!」


葵の上の身体は汗に濡れ、苦痛に揺れる瞳の奥には、

この世に子を残すという最期の覚悟が宿っていた。


そして——


夜の闇を裂く、甲高い産声が響き渡るのです。

小さく、頼りなく、しかし確かに、新しい命の叫びそのものの声であった。


その瞬間である。


産屋の隅に固まっていた黒い影が、葵の上の胸から『はじかれたように』激しく引き剥がされ、悲鳴をあげて霧散します。


影が退いた後には、白檀とも血の匂いとも違う、愛執の苦味に似た香りだけがひりつくように残され、影は細くちぎれながら闇へ溶けていきました。


光る君は産声に振り返り、まるで奇跡を目にしたような震える声でつぶやく。


「……生まれた……我らの……」


だがその腕の中で、葵の上の息は浅く、顔色は死人のように青ざめ、唇はわずかに震えているのみ。


光る君はその手を握りしめ、必死に呼びかけます。


「葵、見てくれ!あなたの御子だ!

元気に、強く泣いているぞ!」


葵の上は重い瞼を開き、愛する者を守り切った安堵を浮かべ、

どこか遠い常世を見つめる静かな微笑を滲ませた。


「……殿。ありがとうございます……

わたくしは……最期まで……貴方様の御子を……」


光る君の手に触れた指が、張り詰めた糸が切れるようにふ、と力を失い——


どれほど名を呼んでも、その胸はもう二度と動かないまま、

新しい命の産声が、夜の深みにいつまでも響き続けていた。


闇の帳が降りた後の一室。


灯りの蝋は溶け尽くし、芯は短く傾き、仄紅い残光がちらちらと揺れていた。

六条(ろくじょうの)御息所(みやすどころ)はその薄闇の中、光る君の身体を、まるで神前の供物でもあるかのように、静かに、しかし貪るように見つめている。


周囲の闇は、二人の秘め事を閉ざす漆黒の檻のように濃い。


六条(ろくじょうの)御息所(みやすどころ)は、光る君を跪かせたまま、ゆるり、と膝を開いた。

十二単の最後の襲が、重々しい絹擦れの音とともに床に落ち、

白い太腿の内側には、そこに宿る熱と、消しがたい執念の影が仄かに透けて見える。


仄紅い灯りに照らされたその姿は、妖しくさえあった。


「ご覧あそばせ……わたくしの、この身のすべてを、

ここまで熱くしてしまったのは……君のせいですわ」


光る君の顎を掴み、その顔をぐいと上向かせる。

吐息が触れ合いそうな距離で顔を寄せると、彼女の濃密な香が、熟した果実の甘さと、断ちがたい執念の香りを帯びて鼻腔を満たした。


六条(ろくじょうの)御息所(みやすどころ)は、光る君の唇にそっと触れ、愛おしむように舌で形をなぞり、甘く、妖しく、ゆっくりとその輪郭を奪っていった。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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