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【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第五帖 初音

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初音③

紫の上は、この涙の理由を説明できません。

光る君を困らせるだけだとわかっている。

光る君は、何ひとつ責められるようなことはしていないと、

紫の上はすべて理性では理解しているのです。


その理性が、むしろ涙をいっそうこぼれさせてしまうのです。

こんな醜い姿を見せてしまうことが、たまらなく恥ずかしく、

さらに涙が止まらなくなってしまうのでした。


紫の上が感じている、この胸の奥の激しい痛みが、恋という名だということはとうに気がついております。


……でも、まだ大丈夫。

今なら、この想いを忘れられる。

なかったことにできる。

涙と一緒に流してしまえば、元の静かな日々に戻れる——


紫の上は、小さな決意を、震える胸に固く抱きしめます。


光る君が時を遡る前には決して見せなかった、堰を切ったような悲哀の涙。

その姿を目の当たりにして、光る君は初めて悟りました。


——紫の上の孤独死は、藤壺への執着だけが原因ではなかった。

——この幼い頃から抱かれていた、深く、痛ましいほどの愛を裏切った、その報いだったのだと。


胸の奥に、氷柱を突き立てられたような鋭い痛み。

紫の上の涙が、光る君の未来への覚悟を、静かに、確実に書き換えていく。


手を伸ばせば届く距離にいる藤壺の宮にも、今は心が揺れない。

あれほど禁忌に触れる快楽に溺れた朧月夜にさえ、会う気すら起きない。


紫の上の涙が、光る君のすべての情念を——

ただ一ヶ所へと縫い付けてしまったからです。


確かに未来は変わり始めている。

それでもなお、避けがたい影も、やはりこの先に潜んでいるのでした。




御息所(みやすどころ)が……伊勢へ下向するのか」


光る君は、時を遡る前に経験した、あの痛烈な別離の記憶を思い返す。

避けられぬ伊勢下向の刻は、今回もまた静かに、しかし確かに近づいていた。


紫の上への澄みきった愛情と、六条(ろくじょうの)御息所(みやすどころ)が纏う烈しい怨念のような情。

その二つが、光る君という存在を根元から裂くように引きちぎっていた。


伊勢下向が、この業を断ち切る救いとなるのか。

それとも、時を遡る前と同じ悲劇を、再び繰り返すだけなのか。

今生でこの因果がどう変じるのか、光る君には見通すことさえ難しい。


それよりも——

元旦の日以来、紫の上は光る君と顔を合わせるたび、

最初はいつも通り華やいだ表情を見せる。

だがその直後に、ふと淡い憂いの翳りが胸奥から立ち上り、

影となって落ちるのだ。


光る君は、その一瞬の曇りを見るたび胸を刺され、

気にかかってならない。

しかし皮肉にも、その儚げな翳りは、時を遡る前の紫の上の面影と重なって見え、いっそう彼女を美しく、そして危ういほどに引き立ててしまう。


光る君は、その変化に目を奪われずにはいられなかった。


そして——避けられぬ、もう一つの宿命が訪れるのです。




「北の方様に……やや子が?」


あの夜。

時を遡る前と同じように、葵の上は光る君の子を身籠ったのです。


しかし違う点がひとつだけある。

——あの夜の光る君は、葵の上の身体の向こう側に、愛しい紫の上を重ね、背徳的に身体を求めた夜だということ。

瞼の裏にも、脳裏にも、どこを切り取っても紫の上しかなかったという一点だけは、明確に違うのです。

その『魂の嘘』が、宿命という形をとって現れた事実に、

光る君は言葉を失う。


「そう。だからしばらくは……

ここへ戻れない日が続くかもしれない」

「おにいさま。わたしのことなど気にせず、

北の方様のおそばにいてね」

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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