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【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第五帖 初音

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18/68

初音②

「元旦だというのに、おにいさまはいらっしゃらないの?」

「恐れながら……光る君は、本日は北の方様の御許に、

お泊まりでございます」

「北の方様……?」


その瞬間——

紫の上は初めて思い出しました。

自らの胸に深く根ざした光る君には、正妻たる奥方がいるという、避けがたい事実を。


それはまるで、真冬の冷水を頭から浴びせられたかのような衝撃でした。

胸の奥がきしりと凍りつく。


なぜ、今まで忘れていたのだろう。


時折、光る君が戻らぬ夜。

朝とは違う、高貴で冷たい香を纏って帰る狩衣。

すべて、目にしていたはずなのに——

紫の上の世界は、あまりにも光る君との日々が温かく、安寧に満ち、ふたりを脅かす存在など『いない』と、無邪気に信じていたのです。


己の愚かさへの羞恥と同時に、葵の上への説明しがたい感情が込み上げてきます。


左大臣のご息女である葵の上が、どれほどの身の上か。

幼いながら紫の上もよく理解していました。


——光る君が自分のもとで微笑んでいた間。

——自分の手を取り、髪を撫でてくれた間。


光る君が自分と共に、満ち足りた時間を過ごしている間、

北の方様はどのような思いで一人、御殿で過ごしていたのだろうか。

紫の上が今感じているこの胸の痛み以上の深く、耐え難い思いを、北の方様に強いてしまっているのではないだろうか。


思えば思うほど、紫の上の大きな瞳から、熱い涙が止めどなく溢れてきます。


いっそ……

このまま涙を流し続けて、目が潰れてしまえばいいのに。


そうすれば——

おにいさまに出会うことも、胸を痛めることもなかった。

見えなければ、感じなければ、

おにいさまが誰かと結婚していると気付くこともなかった。


すべては——

知らずにいれば済んだのに、見てしまった己の罪。


紫の上は小さな手で顔を覆い、声にならぬ嗚咽をこらえました。

その涙は、幼子にはあまりに重い、愛と嫉妬と贖罪の色を帯びていたのです。


どれほど恨みつらみを胸に積み上げ、己を憎らしいと責め立てても、紫の上の心に浮かぶのは、結局のところ光る君の——

あの優しく、愛しく、たまらなく温かな面影だけなのです。


この恋心こそが、いま自分を苦しめるすべての源だと、

痛いほどわかっているのに。


いっそ時が戻って、おにいさまと出会わなければ……


そう絶望の淵で思ってしまいながらも、やはり紫の上が思い返すのは、北山で出会ったあの日の、触れた手のひらの切実な温もり。


あの運命的な邂逅だけは、どうしても『なかったこと』にできない。

それが、この心の真実だったのです。


日が昇り、元旦の光が御殿を照らす頃、ようやく光る君が紫の上のもとを訪れます。

しかし紫の上は、約束の刻限になっても寝所から現れません。


恥と痛みを隠すように、布団に深く身を潜めているのです。


「紫。どうしたのかな?」


御簾の外から響くのは、いつもと変わらぬ優しい、慈愛のこもった声。

けれど、紫の上の胸を荒れ狂わせる嵐は、まだ一片たりとも鎮まってはおりませんでした。


一目会いたい。

けれど、北の方様への消えぬ罪悪感が激しくせめぎ合います。


「顔を見せてごらん」


優しくも退けられぬ強さで布団を取られた瞬間、光る君は初めて小さく丸まり、声もなく泣き崩れている紫の上の姿を目にするのでした。


「おねがい……見ないで……」

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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