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【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第五帖 初音

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初音①

挿絵(By みてみん)

夜明けの刻……

墨色の夜を裂くように、青磁色の冷たい光が障子の間から忍び込みました。


昨夜、二人を包んだ熱は、朝の静寂によって容赦なく照らし出される。

敷き乱れた衣、かすかな香の残り香。

葵の上の白い指先は、疲れ切ったように布団をかすかに掴んだまま眠っています。


光る君は、乱れた衣を整えながら、わずかに震える指で胸元を押さえ、深く息をつきました。

その指先は、夜露に濡れた青葉のように冷たい。


胸の中に残ったもの——

それは、紫の上を求めた『激情の残滓』であり、

愛しい紫を胸の奥で反芻しながら、正妻である葵の上を抱いてしまったという深い罪悪感。

そして、己の腕の中に、一瞬でも『愛』の錯覚を与えてしまった葵の上。


布団の向こう——

葵の上の寝顔はほんのり薄紅に染まり、静かな満足の気配を湛え、疲れ切ったように、穏やかな微かな吐息を立てています。

その白い頬は、僅かに薄紅に染まり、昨夜、彼女の氷のような矜持が融解し、歓喜に震えたことを静かに物語っているようです。


だが——光る君にとっては。

その幸福は、朝の光に触れた露のように、はかなく消え失せる幻でしかなかった。

彼が去れば、葵の上は再び孤独の静寂へ戻る。

昨夜の温もりは、彼の胸の中では『紫の上の記憶の影』でしかない。

それは、この世の無常そのものでした。


光る君は、一瞬だけ葵の上の寝顔を見つめた。


その眼差しには、同情でも、愛情でもなく——

避けられぬ悲劇を悟る、静かな痛みだけが宿っていた。


立ち上がると、狩衣から濃密な香がふわりと立つ。

それは光る君の薫物と、葵の上の高貴な香が混じり合った一夜限りの証。

しかしその香りも、紫の上の待つ邸に戻れば、すぐに『無かったこと』になってしまう。


紫の上への一途な献身だけが、かつての罪を贖う、唯一の道なのだから。


部屋を出る直前、光る君は一瞬だけ立ち止まり、障子越しの朝の光を受けながら瞼を閉じた。

冷たい朝の光を浴びて身を固くしますが、すでに彼の頭の中にあるのは、小さな、愛しい紫の上のことばかり。


ゆっくりと歩み出すその背には、朝霧のようにしっとりとした影がまとわりつく。

その影こそ、いつか訪れる破局を、静かに予兆しているかのようでした。



「殿は……?」


生まれて初めて、真に愛されたのだと——

そう錯覚してしまうほど甘い夜を経た翌朝。

清らかな衣の乱れとは裏腹に、寝所には葵の上ただ一人。

彼女の隣にあったはずの温もりは、すでに冷え切り、

まるで初めから光る君など存在しなかったかのようでした。


あのような、熱に浮かされた夜を過ごしたのだから——

わずかでも、共に朝餉を摂ってくださるかもしれない。

少しは、夫婦としての距離が縮まりはしないか。

この長い年月の氷が、ひと欠片でも溶けるのではないか。

光る君に心から優しくできるかもしれない。


そうかすかに胸に灯った葵の上の想いは、光る君が暁前に無言で出立したと聞かされた瞬間、無残にも砕け散るのでした。


胸を締め付ける痛み。


しかし、今まで己が高慢と矜持ゆえに光る君へ向けてきた冷たさを思えば、罰として当然だと、理性の隅では理解できる。


……それでも。


たった一晩。

ほんの一瞬ではあれど、愛されていると錯覚してしまったその幸福は、これまで数年抱え続けた虚無すら凌駕する、深い深い虚しさとなって葵の上の胸を満たしていきました。


気がつけば——

白い頬を伝い落ちる涙が、ひとつ、またひとつ。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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