表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第四帖 葵

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/68

葵④

「……はっ……」

「やっ……ぁ、だめ……殿……っ……!」


葵の上の抗いの声が震えるたび、光る君の脳裏に浮かぶのは紫の上の姿ばかり。


伏せられた目元。

白瓷の肌に走る薄紅の気配。

唇を甘く噛み、細い喉を震わせるあの息づかい。

口づければ、必ず震えながら身を委ねてきた、小さく愛しい身体の感触。


目を閉じれば、目の前にいるかのように、紫の上の姿は艶やかに、玉のように浮かび上がる。


柔らかく丸みを帯びたふくらみを、愛おしむように唇でそっと包めば、

より一層甘く掠れた声が、耳の奥で鮮やかに蘇ります。

光る君だけが知る秘めたる場所へと熱い掌を添えれば、

触れたそばから火が灯るように、たちまち熱が広がっていったあの記憶。


触れた腰の細さまでもが、まるで紫の上そのもののように錯覚してしまい、掴んで離したくなくなる。


「……あっ……あぁ……っ」


葵の上の体温が上がり、理性よりも先に『身体』が光る君の動きに応えてしまう。

身じろぐ度に、その肢体は汗ばみ、夜露を宿した花のようにしっとりと熱を帯び、

つやめく曲線を闇の中に露わにする。

すべてを、光る君の激しさを、まるごと受け入れ、小さな波に揺らめく姿。

胸元がわずかに上下し、細い指が畳を掴むたび——

光る君の脳裏には、紫の上が夜露を宿した花のように息を震わせていた光景が、いよいよ鮮明に蘇りました。


いつの間にか、目の前の葵の上ではなく、

——光る君の腕の中にいるのは、『紫』の幻。


触れれば震え、抱けば甘くしなる、あの愛しい肢体。


高貴な正妻の肢体に、己の最愛の人の面影を深く濃く重ねるという、取り返しのつかぬ背徳を犯していることを理解しながらも——

光る君は、もはや止まれませんでした。


いつもの、義務と儀式だけの冷えた夜とはまったく違う。


その違いを、葵の上自身も、無意識の奥深くで悟ってしまったのでしょう。

抗おうとするのに、魂の底で本能的な熱が息を吹き返し、

震える指先から力が抜ける。

押し殺した吐息が喉の奥から零れ——


葵の上は、ついに、光る君の熱を拒めなくなったのです。


「んっ……あ……っんん」


熱を孕んだ唇が狩衣越しに触れ、衣擦れの微かな音さえ、

ふたりの呼吸に吸い込まれるように沈んでゆく。

そして——鉄の輪のように、葵の上の華奢な腰を逃さず捕らえた光る君の腕。

その強さは、儀式の夜では決して触れたことのない、

切実な渇望の熱を孕んでいました。


これまで、ただ『正妻としての務め』として抱かれるばかりであった夜。

愛もなく、形ばかりの婚姻の証として重ねられてきた身体。

なのに——今宵の光る君は違っていた。

葵の上の身体を求め、そして、その奥に潜む魂の震えまでも求めている。


その予期せぬ激しさ。

そして未知の快楽。

それは、一瞬、葵の上の胸に——

本物の愛が芽生えたかのような、甘美で、危険な錯覚を、

誇り高き葵の上の心に深く感じさせてしまったのです。


「このままっ……!」

「……っ殿……!」


いつもなら、苦痛を堪えるように握られていた衣の端。

それが今、いつの間にか光る君の首元へ縋るように伸ばされ、逃すまいと、求めるままに絡みつく小さな指。

どれほど誇り高い女であろうとも、追いかけてきた温もりの記憶が一度胸に宿れば、理性など容易く崩れ落ちるもの。


激しく高鳴る鼓動。

重なる体温。

汗ばむ肌の擦れ合う音、かすかに震える吐息。

そのひとつひとつが葵の上にとっては、生まれて初めて味わう魂を揺さぶるほどの快感。

彼女の長年の矜持は、海の底へ沈む砂のように、抵抗もできず落ちていきました。


この夜は——二人の運命を、確かに変えてゆくのです。

ブックマーク、☆☆☆☆☆、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
第四帖 葵まで読ませて頂きました。 原作の源氏は、「理想の女性(藤壺)が手に入らないなら、その面影を持つ少女(若紫)を自分好みに作り上げればいいじゃない」という狂気的な執着で、紫の上を散々振り回して…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ