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【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第四帖 葵

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葵①

挿絵(By みてみん)

夜が明け、空が薄桃色に染まり始めた頃、ついに尼君は静かに最期の息を引き取りました。

その傍らで——

姫は、小さく肩を震わせ、息を殺すようにして膝を抱え、

硬直したまま動かずにおられました。


幼い身に余るほどの悲しみが押し寄せるのを、必死で堪えようとしているその小さな背中は、吹けば散ってしまう朝露のように儚く見えました。

光る君は、その痛ましさに胸を貫かれつつも、安易に声をかけることができません。

それは、紫の上を孤独のうちに死なせた——

自らの罪の重さが、今さらのように喉を塞いだからでした。


「……尼君。お願い……独りにしないで……」


姫は亡骸を乱暴に揺らすこともなく、冷たくなった手を、

自分の小さな掌で包み込むように握りしめ、喉の奥で押し殺した嗚咽を零します。

その細い声が光る君の胸の奥に、鋭い棘となって突き刺さりました。


……間に合わなかったか。


未来を知る者として当然に来ると覚悟していたはずの死。

それでもこの現実はあまりに重く、胸を裂くほどの痛みをもたらします。


尼君は、光る君の昨夜の誓いを、最後の希望として支えにしてくださったのだろう——

『この子を、どうか二度と孤独に沈ませぬよう……』

その願いは、途絶えた息の余韻となって、沈香の香のごとく深く部屋に満ちていました。


光る君は静かに膝をつき、尼君の枕元で深く頭を垂れました。

合わせた両手は、ひどく震えておりました。


必ず……守りたてよう。

この子を……今度こそ、必ず。


それは祈りというより、運命に抗う者の熱い誓約でした。


その時、小さな気配が揺れました。

姫が、涙で濡れたままの大きな瞳で、恐る恐る光る君を見上げたのです。


「……おにいさま……?」


その声は、わずかな希望と圧倒的な恐怖が入り交じった、

胸が張り裂けるような響きでした。

光る君は思わず手を伸ばしていました。

自らの意思よりも早く、魂だけが先に動いたのです。


「姫……」


たったその一言で、姫は堰を切ったように、光る君の胸元に飛び込みました。

喉を詰まらせ、声にならぬ嗚咽をあげて泣き崩れます。

尼君の亡骸に縋りつくのを、幼いなりに必死に我慢していたのでしょう。

その小さな身体は、愛と恐怖と孤独に押し潰されるように震え続けていました。


……こんなにも……


こんなにも深く、こんなにも激しく孤独に耐えていたのか。


時を遡る前——

妻となった紫の上は、泣きたい時でさえ泣かなかった。

寂しいとも、苦しいとも言えず、ただ静かに孤独という毒に侵されていった。


いま目の前で泣きじゃくる幼い姫の姿は、その痛ましい過去と幾重にも重なり、光る君の胸を容赦なく締めつけました。


耐えきれずに、光る君は姫の細い肩をそっと、しかし決然と抱き寄せます。


「もう大丈夫だ……姫、こちらへ。俺のもとに」

「……尼君がいなくなったら……わたし……ほんとうに……

ひとりになってしまうの……」


その言葉は、刃のように光る君の胸を裂きました。


もう二度と——

この子に『孤独』などという言葉を言わせてはならない。


その激しい贖罪の思いだけで、光る君は震える腕で姫を強く、

しかし優しく抱き上げました。

姫は抵抗することなく、小さな腕で光る君の背に必死にしがみつき、泣き濡れた顔を彼の胸に深くうずめます。

その泣き声は、胸の奥で凍りついていた光る君の罪を、

鋭く、温かく溶かしてゆくようでした。


「行こう。姫。俺があなたを二度と、一人にはさせない」


その胸に抱かれたまま、姫は震える声で、最も恐れていた問いを漏らしました。


「……わたしを……もう、見捨てたり……しない……?」


その小さく、切実な言葉に、光る君は息を呑みました。

——この幼い子が、どれほど長いあいだ、見捨てられるという恐れと孤独を抱えて生きてきたのか。

胸が焼けるような痛みとともに、抱き寄せる腕に自然と力がこもります。

それは、運命を奪い取る力であると同時に、この子を守り抜く誓いの力でもありました。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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