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14. 可視化は絶対にしないでくださいね

 ナールからはまず基本的な事から教わっている。当たり前だけど神の事は分からないそうなので、まず存在する生き物の話から聞く事にした。

 この世界ではざっくり言うと人間・魔物・妖精・精霊・神に分かれている。人間は魔物と妖精は目で見る事が出来る。精霊は物体に宿っていないと人間・魔物・妖精からは見えない。神はどの種族からも基本は見えないが、魔物・妖精・精霊は神が存在している事を理解している。何故かは分からないが、そういう風になっているとの事だ。

 種族としての力の強さは神・精霊・妖精・魔物・人間の順だが、妖精は個体差による性格・力の差があるので一概には言えないらしい。要するに、人間のエレフよりドラゴンであるアルトゥリアスの方が強い。魔物であるドラゴンより水の妖精の方が種族的には強いが、アルトゥリアスが強いのでシャナと比べたらアルトゥリアスの方が強い。アルトゥリアスより精霊であるナールの方が強い。とは言え、力強いの種族に服従するわけではない。人間は魔物を倒して身を守ったり、互いに土地を奪い合ったりするし、アルトゥリアスやシャナは私に敬意を払わないので、あくまで「基本的な考え方」だ。

 少し休憩にしよう、とソファの背もたれに肩を沈める。覚える事が多いので、一度に頭に入りきらない。傍にナールがいるとは言え、人前で聞くのも恥ずかしい、神としての威厳ってものが一応あるわけで。

 そういえば、と最近疑問に思ったイロエ温泉のお湯の塊について聞いてみる。人魚のような形になったあれは、魔物だろうか。


『それは恐らく水の精霊なのだ』

「えっ!?」


 水の精霊にいつ会えるか分からないからナールを眷属にしたんだけど……間違えた? あっちに接触してから考えるべきだったのかもしれない。ナールに教えてもらう事に不満はないけれど、泉の女神の眷属が火の精霊っていうのもおかしくない?


『フォンテ様、眷属になってしまえば属性はあまり関係ない。どうせ我はもう火の精霊ナールではないのだ』

「ん? どういうことですか?」

『今は女神フォンテの眷属のナールである。無論元火の精霊ゆえ、眷属になったとは言え姿形や能力は変わらぬ』

「え? じゃあ今の火の精霊は?」

『我が眷属になった瞬間、力の溜まり場か妖精が精霊に転じたはずなのだ』

「……? そうなんですね?」

『そうなのだ』


 情報がうまく整理できない。あの一瞬でナールは火の精霊ではなく眷属になって、どこかで火の精霊が新しく生まれたという事。あっさりナールを眷属にしたけど、良かったんだろうか。……え、良かったの? ナール曰く精霊を辞めた話は聞いた事がないらしい。それって結構な歴史を遡っても「前例のない事」なのでは。本当に大丈夫なのか。


『気にする必要などないのだ。誰であろうと精霊は精霊、眷属は眷属』


 火って苛烈なイメージがあったけれど、ナールはまるで呑気。今も私の頭上を自由に動き回っていて、厳かさはない。火は物体ではなく現象。だからこそ逆に形に捕らわれないのかもしれない。他の精霊がどんな性格か聞いてみると、『水は自由で適当。風は適当で気分屋。土は呑気で気分屋。光は放浪癖。闇は知らない』と返ってきた。なるほど違うわ。多分火を含めみんな似たような性格なんだろうな。大体自由で呑気。闇は火のことが好きじゃないらしく、接触したことがないようだ。闇からすれば火と光は相性が悪いらしい。それもそうか。

 色々踏まえると、泉の女神なのに火を扱える眷属がいるっていいのかも。水系に偏らない感じで。それに元精霊、力が強いので頼もしい事この上ない……が、私には「神罰」の能力があるので、攻撃的な方面でナールが活躍することはないはず。






 さて、温泉もできて眷属もできてひと段落……と言いたいところだが、そうは問屋が卸さない。眷属が出来たからなのか、またしても新たに担当場所が追加されてしまった。まだ一回も見ていない。これにはきちんと理由があって、ナールは私が担当している泉を森の泉しか知らなかった為、オアシスや湧水洞、温泉を一通り案内しつつしばらく滞在して遊んだりしていたからだ。行きたくないからでは、ない。残念ながらイディナロークやエレフには会えなかったが、紹介だけはしておいた。ナールはオアシスと温泉が気に入ったようで、温泉は纏っていた火を解いてまで入っていた。水の精霊もそうだったが、精霊は実体がないのに温泉が好きなのか……あ、私も同じだ。必要ないのにお風呂入ってる。お湯から出たナールはまたすぐに火の玉になった。水気があっても火は着くんだなと思っていた事を見抜かれ、『我の本体は火種ではないのだ』と先手を打たれた。

 窓付近を激しく飛び回るナールに新しい担当場所に行く気が起きない事を相談してみると『ならばまだフォンテ様が降臨する時ではないだけ』と言った。神の意志が全ての意思。神が自ら降り立つ時こそ他種族にとって「その時」。気が向くまでは自由に過ごせばいい。そういう事らしい。よく分からないが、私が行きたい時が行けばいいと言う事だった。それを聞いたら気が楽になった。


『フォンテ様は変わっている』


 行きたくなければ行きたい時に行けばいい。精霊は基本自分の気分で動く事が普通だと思っている。聖書に書かれていた神々の性格も大体そんなようなものだった。頑固な気分屋のぶつかり合いだった。けれど思い返してみれば、オアシスの時もカルム湧水洞の時も現地に行った時にエレフやアルトゥリアスたちと出会った。もちろん窓を見てから現地に行った場合もあるけれど、それも何となく窓を見た時に気付く事が多かった気がする。あんまり覚えてないけど。……なら、いいのかな。行こうかなって思う時が来るまでは確認に行かなくても。しばらくはナールとゆっくりしていても。


『フォンテ様、自由に温泉に行っても良いだろうか』


 ナールの意識は今、温泉にしかない。私がこんなに気にしていたのがアホらしく思えてきた。


「可視化は絶対にしないでくださいね」


 温泉の様子が映し出された窓の前で、ナールが炎の色を赤や橙、緑に変化させている。イルミネーション要素がすごいけどかわいい。ナールが眷属になるだけでこんなに賑やかになるなんて思ってもみなかった。それはもちろん電球的な意味ではない。ナールは自分の感情を素直に色や動きで表現してくれる。色々な意味で煩い時もあるが、基本は賑やかで見ていて楽しい。ナールを眷属にして良かった。

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