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王の命を狙ったのは、だれ?

 王からプロポーズされたマユは、カードを見なかったことにして閉じた。


「サラ、そのドレスは衣装室へお願い」

 サラはマユの言葉が聞こえたようすもなく、朝霧のように美しいドレスを撫でながらウットリする。

「マユはいいなぁ……。うらやましい」

「私のどこがうらやましいの?」

「だって王さまや王子さまから溺愛されて、こんな豪華なウェディングドレスを作ってもらってさ!」

「ウェディングドレスじゃないってば。それにサラと代われるものなら代わりたいわよ」

「あたしとっ!? なんでっ!?」


 マユは憂鬱なため息をつく。

「私なんて悪い魔女呼ばわりされて、どこへ行ってもコソコソ言われて、やんなっちゃう」

「『私なんて』なんて言わないの! そういえばマユがメイドをいじめて何人も辞めさせてるってウワサも聞いたよ。メイドはあたし一人なのにねww」


 マユは黒髪をかきむしる。

「魔女とかイジワルババァとか言われたくないの! なんでこんな目に遭わなきゃなんないのよ!?」

「そんだけでもヒドイのに、夜なよな男をあさってるウワサもあるらしいね」

「男漁りなんて、してませんから!」

「じゃあマユは、夜に何やってんの?」

「え!?」

「前に王さまたちから夜中のアリバイを聞かれたときに、ちゃんと答えられなかったじゃん? ほんとは何やってたの?」

「え……ちょっと……」


 サラはマユの右ほっぺをつまんで強く引っ張る。

「ほら! そういうとこだよ! ちゃんと答えないと疑われるよ! 昨日の夜は何してたの?」

「う……ちょっと……」

「ちゃんと答えなよ!」

「ウソはつきたくないから聞かないで!」

「おとといの夜は!?」

「ダメだってば! 聞かないで!」

「ほんとに犯人だと思われちゃうよ!」

「犯人じゃないです! 礼拝堂は壊してないし、魔女でもイジワルババァでもないし、男漁りもしてません!」


 サラはマユ左頬をつまんで大声を出す。

「そんなの知ってるよ! マユはすごく優しいし、悪いことなんかしない人だ! それがわかってるから、ヘンなウワサがくやしいの! わかってよ!」

 両頬をつかまれたマユはサラの両頬をつかみ返してヘン顔のまま大声を張り上げる。

「はってひんはははってにいうんはほん!(だってみんなが勝手に言うんだもん!)」

「(ははらほうひかひはいほ! はにひへたはひひはさいよ!(だからどうにかしたいの! 何してたか言いなさいよ!)」

「ひやへす!(イヤです!!)」

「はっひのはフエヒングホヘスはよへ!?(さっきのはウェディングドレスだよね!?)」

「ひはいはふ!(ちがいます!)」


 二人が互いのほっぺをつかんで引っ張り合っていると、窓の外で轟音が鳴り響き、ガラスがビリビリ震え、盛大な土煙が上がった。


「ななな、なに!?」

「なんだ!?」

 二人が窓へ駆け寄って外を見ると、さっきまで自信満々で立っていた巨大な神様が仰向けに倒れて地面に転がっている。そして自信に満ち溢れた表情は変わらぬまま青空を見上げていた。


「デッカイ神様が倒れてるよ!」サラが大声をあげた。

「見に行きましょ!」


 二人が急いで現場へ行くと、すでにワラワラと人が集まり始めていた。

 人の輪の中心には土煙で真っ白になった王が忙しく指揮をとっている。巨像が倒れた時、至近距離にいたらしい。

 マユは人をかき分けて王に近寄ると上ずった声で尋ねた。

「王様!? だだだ、だいじょうぶですかっ!?」

「心配するな無傷だ。近衛兵! 倒れた像の周囲を立ち入り禁止にしろ。破損個所を調べて、壊れる恐れのある箇所は壊せ。中途半端に破損して崩れ落ちると危ない」

「ななな、なにがあったんですか!?」

「像の前を通り過ぎた途端、像が倒れてきたらしい。背後で大きな音がして、振り返ったら像が地面に激突するところだった」

「お怪我がなくて、なによりです!」


 王は土ほこりで真っ白になった我が身を見て笑う。

「まるで私が石像になったみたいだ! どうだマユ? 偉大な神の像に見えるか?ww」

「笑いごとじゃありません! 一歩間違ったら像の下敷きだったんですよ!」

「私は悪運が強いからな! 皆の者、心配するな! 私は無事だ! さあ散った散った!」


 城の者たちは王を案じてその場を離れがたいようすを見せたが、近衛兵たちが王を取り囲んで城の者たちを追い払った。マユは小声でそっとつぶやく。

「王様……もしかしてこれは事故ではなく、王様を狙って……?」

「今はまだわからぬ」


 その日の夜、晩餐の間でテーブルを囲んだ一同は心配そうな顔をしていた。平気な顔をしているのは当事者の王だけだ。

 マユやノエルやオスカーが心配げな顔で王を見つめる中、アレックスが美しい眉を寄せて口火を切った。

「父上、昼間の件で何かわかりましたか?」

 王はのどを鳴らしながらワインを飲み干すと銀杯をテーブルへ置いた。


「残念ながら事故ではなかった」

「事故ではなかった? どういう意味でしょうか?」

「巨像の土台が盛大に削られていた。腕の部分にロープが巻き付けられて、それを引いて像を倒したらしい」

「すると犯人は巨像が倒れた時、父上のすぐそばにいたということですか?」

「そうらしい」

「父上を狙った犯行ですか?」


 執事のセヴィが注いだ赤ワインを飲みながら、王は難しい顔をする。

「それがよくわからんのだ。大部分が削られた土台の様子から見て、像は容易に引き倒せたはず。私を押し潰すつもりなら、確実にできたはずだが……」


 マユが問いかける。

「像が倒れたのは、王様が通り過ぎた後ですか?」

「そうだ」

「像と王様の距離は?」

「かなり近かった」

「犯人は失敗したんでしょう! ご無事で良かった!」


 王とアレックスはサラの言葉を聞いて意味ありげに視線を交わしたが、すぐ笑顔になった。王はニコニコしながらワインを飲む。

「そうだな! マユの言うとおり犯人は失敗したのだろう! 死んではマユと結ばれないから失敗に終わって良かった!」

「私と結ばれることはありません! それで犯人は誰だと思われますか?」

「王位を狙っている者の仕業しわざだとすれば、王位継承権一位のアレックスじゃないか?」

「ブッ!!」

 端正な横顔を見せてワインを飲んでいたアレックスが噴き出した。

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