オスカーは必死です!
ダン! ダン! ダン!
「うるさいな……。またアパートの工事……? いま何時よ……?」
マユは枕元のスマホで時間を見ようとするが、スマホが見つからない。
「アレ? スマホ、どこ?」
半開きの目で手探りしているうちに、昨夜の記憶がよみがえってきた。異世界……ドゥワーフ……美しい王子たち……王女の失踪……。
「っっっ!? 夢だった!?」
飛び起きてキョロキョロする。窓から射す薄明かりで、雑多に物が飾られた可愛らしい部屋が目に入る。ニャルの部屋だ。
「……夢じゃなかった……!」
マユがガックリしている間も音は続く。
ダン! ダン! ダン! ダン! ダン!
一階からガングの声が聞こえた。
「まだ夜明け前だぞ! 誰だ!?」
「ガングさん、俺だよ! オスカーです!」
「王子か!? どうしたんだ!?」
「ドアを開けてください!」
ガチャガチャ、ギイイ……。ガングがドアを開けたらしい。
「どうしたオスカー? 何だその格好は!?」
「マユは!?」
「マユなら二階で寝てる……って、オイ!」
ドカドカ階段を上がる音がする。マユはベッドの上で縮み上がった。
バン! ドアが開いて赤毛が乱れた燕尾服のオスカーが入ってきたかと思うと、マユをお姫様抱っこで抱き上げた!
「な、何するのっ!?」
マユの問いには答えず、オスカーは階段を駆け下りる。一階から心配そうに見上げていたガングは、抱きかかえられたマユを見て目を丸くする。
「こりゃ、いったい!?」
「マユを借ります!」
オスカーはガングの横を駆け抜けると、外で待っていた馬車に乗り込んだ。間髪入れず馬車が走り出す。
「マユ、会いたかった!」
馬車の中で待っていたノエルがマユの首っ玉に抱きついた! ノエルも蝶ネクタイを付けて正装している。
「こここ、これ!? どどど、どういう!?」
あまりの展開に混乱するマユ。赤毛の美少年オスカーのヒザに乗って、首には天使のようなノエルが抱きついている。
「ごめん、マユ。驚かせたな」
「どどど、どういう!?」
「兄さんの計画だ。マユに姉さんの身代わりを頼みたい」
「でも昨日は、レティシアさんを探し出すって……!」
「俺が言ったろ? 静養に使ってる城までは遠いって。兄さんはちゃんとわかってて、マユに言わなかったんだ」
「どうゆうこと?」
「あの時マユに身代わりになってほしいって言ったら、マユはビビって逃げ出すかもって兄さんは考えたんだ」
「たしかに逃げたかも……」
「だから逃げられなくなるまで待って、出直してきたってわけ」
「最初から連れ出すつもりだったとは……!」
「姉さんを探しに、城へ兄さんが行ってる。姉さんが戻ってくるまでマユに身代わりを頼みたい」
「そんな……!」
「俺、言ったろ? 間に合わないって。儀式は夜明け前に始まるんだ」
「えええ!?」
「頼むよ! 国の存亡がかかってるんだ!」
ずっと首にしがみついていたノエルが顔を上げる。
「マユ、ボクからもおねがい!」
「と、とりあえず! ここから降ろして!」
マユはオスカーのひざから降りようとした。
「だめだ!」
オスカーが抱きしめる。マユの顔はオスカーの胸に埋もれた。彼の心臓が早鐘のように脈打っている。その鼓動を感じたマユは、自分の鼓動も速くなるのがわかった。
「身代わりになってくれるって言うまで放さない! なあマユ、お願いだから……!」
すぐそばでオスカーの懇願が聞こえる。熱い吐息が耳元にかかった。
「ちょっ! 近い! オスカー、近すぎる……!」
「頼むよ。俺、何でも言うこときくから……!」




