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6. 七瀬愛花は見たー愛花視点ー

 入学式を終えた私――七瀬愛花がテニス部の練習を見学しているとき、涼が時々体育館の方に視線を向けてソワソワしているような気がした。

 まあ、気のせいかなと思い、私は先に帰った……ふりをしてみた。


 私がちゃんと帰っていったと思い込んだ涼は私が見えなくなると、すぐに体育館の方に足を向かわせたようだった。そんな涼から少し離れて尾行した。


「体育館に何があるんだろう」


 涼は体育館に着くと、ドアの隙間から中を覗き始めた。


(変人だと思われても知らないぞ~)


 そんなことを考えていたら、涼は覗くのをやめ、体育館の中へと入っていった。きっと、変人だと思われるかもしれないと気づいたのだ。うん、きっとそう。

 そして気がつけば私の方が覗く形になっていた。


 体育館の中では1人の女子生徒がバレーの練習をしているようだった。


 あれは、確か1学年上の青井香澄先輩だったはず。

 春風高校のパンフレットの女子バレーボール部のページに大きく写真が載っているのを見た記憶がある。


 でも、そんな凄い先輩と涼が親しげに話している。

 どういうことなのだろう。

 入学したばかりなのにもう先輩の知り合いができたの?


 いや、そんなはずはないと思うんだけど。

 私たちは今日ずっと一緒にいたんだし、もし涼が今日その先輩と知り合ったのなら、私も知り合ってなきゃおかしい。


「仲、良さそう……」


 涼はずっと先輩がサーブの練習をする姿を眺めている。

 終わるのを待っているのかな?

 いや、何で涼が先輩のことを待つ必要があるの?


 私の頭の中は混乱していた。


 そこから10分ほどで先輩は練習を終え、着替えてから涼の元に戻ってきた。


「やば、こっち来る……!」


 2人が体育館を出ようとこちらに向かってきたので慌てて隠れた。

 てか、なんで一緒に?!


(本当に一体どうなってるの?)


 私は困惑しながらも尾行を続けた。

 楽しそうに喋りながら一緒に歩く涼と先輩を見ていると、何かモヤモヤした気持ちになってしまう。

 仲良くなった先輩がいるのに教えてくれなかったからなのか、それとも別の理由からなのか、今の私には分かりそうにない。


「はあ……」


 自然とため息が漏れる。


 というか、2人が一緒に帰っているってことは家が近いとかなのかな。それで、家が近いからよく顔を合わせるようになって仲良くなっていたとか?

 それなら、少しは納得できる。


(本当に楽しそうに喋ってるなぁ)


 今にも手を繋ぎ始めるんじゃないかと思ってしまうくらい、仲が良さそうに見える。

 私の方が涼との付き合いは長いのに……。


「全国、絶対に行きましょう」

「絶対に行く。けど、涼くんも行こうね」


 突然、2人が見つめ合いながら2人の目標を立てた。

 全国……。全国大会のことだよね。

 違う競技だけど一緒に頑張ろうって感じなのかな。


 私が知らない間にそんな仲になってたの?


 なんか先輩の方が上機嫌そうにスキップをし始めた。

 そんな姿を見ている涼も幸せそうな笑顔を見せている。


(あー、なんかモヤモヤする……)


 鏡を見ないでもわかる。

 きっと今の私はとても不機嫌そうな表情をしているのだろう。

 何なんだろうこの気持ち。


「お互いに良い刺激をもらえそうだね。よーし、今日は2人で全国に行く目標ができた記念に夕飯を豪勢にするぞ~」

「あははっ、それは楽しみです」


 は……?


 突然、先輩の口から衝撃的な発言が飛び出た。

 夕飯を豪勢にするぞ?

 まるで一緒に食べるかのような発言に聞こえる。


 それに対して涼も楽しみですと答えた。

 待て待て待て!

 どういうこと?


 分からない分からない。

 何が何だか分からない。


 私が混乱していると先輩が振り向きそうになったので、慌てて電柱の陰に身を隠した。


(あ、危なかったぁ。危うくバレるかと思った)


 そこから数分後、2人はとあるマンションに一緒に入っていった。

 さすがにこの先はついていけないので諦めたが、さらに混乱したのは言うまでもないだろう。


「なんで同じマンションに……?」


 よく分からないけど、多分隣の部屋に住んでいるのかも知らない。それで今日はせっかくだから一緒に夕飯を食べるとかかな。

 さすがに同じ部屋ってことはないと思うけど……。


 ……ないよね?



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