51.アベルくんと魔法教室。
51.アベルくんと魔法教室。
毎度おなじみの子供部屋。
窓を開くと爽やかな風が入ってくる。
その風で天井の明かりの魔道具がゆらゆら揺れているね。
よし!これからやることにぴったりな雰囲気だ。
広い部屋に子供たちが集まって、今日は朝からなにをするか。
そりゃ、あーた、今日から始まる魔法の修練だ!ヒュー!
先生はもちろん元A級冒険者にて、お転婆魔法使いの二つ名持ち!アリアンナ母さん。
生徒は3人。
我が姉、生きたノヴァリス王国百科事典、天才!シャーロット。
俺の乳兄弟にして聖女、アンネローゼ。
そして私、アベルが生徒となっております。
ロッティーは相変わらず事象のイメージの練習。
俺とアンネは魔素を感じること、そして呼吸にて吸い込む練習ということになっている。
俺とアンネは基本中の基本からってこった。
おや?今日の母さんは、少し顔がむくんでなんか苛ついている。
うわぁ、機嫌が悪そう。
魔法の修練一日目に限って、なんでこんな状態なんだ?
おそらくあの日だな。
なんてこった。
「さあ、アベルとアンネちゃんは今日が初めてね。よろしくお願いします。」
そう言って母さんはきれいなカーテシーを決める。
さっきの態度はなんだったんだ?
いつもどおりじゃん。
「よろしくお願いします!!」
俺は元気に挨拶する。
「お願いします…」
アンネはちょっと落ち着かない。
緊張気味だな。
「ロッティーはイメージの練習ね。一人で大丈夫よね?」
母さんはロッティーの方を向き聞いている。
「はい、大丈夫よ、母様。」
ロッティーはこともなげに返事をした。
「では、ロッティーは練習していてね。じゃ、アベルとアンネちゃんは魔素の呼吸練習を始めます。魔素はこの何も見えない、空気のただ中を漂っているわ。この空気中の魔素を呼吸で取り込むの。体内に入ると、小さな力を感じるの。これが感じられないと魔法使いとしての才能がないってことだから、なんとしても感じられるようになってもらいます。いいですね。」
ちょっといつもの柔らかい言葉遣いじゃないような…?
「はい!」
ちゃんと返事はしよう。
ちなみに俺の体内の魔素はスッカラカン。
今日の練習のためにね、何があるかわからないから抜いてきた。
魔素の抜き方?魔力変換で魔素を魔力にかえて、大気中に逃がせば抜けるよ。
ほんと、カセットガスみたいだね。
そして隣でアンネが返事をする。
「はい…」
なんだか蚊の鳴くような声だね。
「アンネ、大丈夫?緊張してる?」
「大丈夫です、アベル様。ありがとうございます。」
アンネはそう言って引きつった微笑みを作る。
「初めてのものは、なんでも緊張するわよね。緊張しない人もいるみたいだけど。」
母さんは俺の方をチラ見して、なんだか俺に当たりが強くない?
「ガクブルだね。」
「あなた、なに言ってんのよ。まあ、いいわ。それでは二人ともまずは深呼吸ね。吸ってー、吐いてー。」
母さんのリズムに合わせて深呼吸を行う。
魔素がどんどん入ってくる。伊達に3年近く魔素タンクの身体になっていない。
アンネも俺が魔素タンク化してあげたから、もしかするとすぐ魔素を感じることができるかもしれない。
「いい?魔素は力の源のようなもの。口から入って、胸の肺に一旦とどまるわ。その時に、暖かな力のようなものを感じるの。それが魔素よ。二人は感じられるかしら?ああ、アベル、あなたは大丈夫よね。」
何、庭園でお茶してたときから、俺いじって楽しんでない?
魔素呼吸の教えは、本当に抽象的だよな。
事象への昇華はもっと抽象的だけど。
「すー、はー。」
「すー、はー。」
俺とアンネは深呼吸を繰り返す。
その時不意に母さんから声がかかった。
「アベル、どこまで溜まった?」
「魔素溜まりまではまだだよ。」
あ!ヤベッ!引っかかった!
ヤバいものが、ものすごい圧力をもって俺のことを覗き込んでいる。
コワイ…
「アベル、あなたやっぱり、もう出来てんじゃないの!」
母さんの迫力ある物言いに、俺は縮こまる。
「え!アベル、魔素を感じられるの?」
あーあ、ロッティーまで食いついてきたよ。
「アベル様、もうできたんですか?凄いです」
アンネの反応は至って普通だ。
「まあ、気づいていたけれど、いつからできるようになったの?」
母さんの取り調べが始まる。
「黙秘権を行使します。」
「黙秘権?何よそれ。またわけのわかんない言葉を使ってはぐらかそうとしてんでしょ。」
この世界にない言葉を使われた母さんの殺気が俺に向かって圧力を増す。
自分の息子にここまでの殺気を飛ばします?
アンネなら気絶してるよ。
「で、あなた、どこまでできんの?まさか昇華まで出来るなんて言わないでしょうね。」
ああ、駄目だ、もう隠しきれない。
「アベル!どうしたの、なにか言いなさい!」
母さんの圧のボルテージが高まって行く。
よし、腹をくくるか。
「もう、わかったよ、出来るよ。」
俺は右手を突き出し、手のひらを広げた。
「ほら。」
そして5本の指先にすべて炎をともした。
母さんたちの瞳が零れ落ちそうなほど見開かれてた。
その瞳の中に炎が揺れている。
その横で「わぁ。」と言って胸の前で手を合わせ、頬を赤く染め、めいっぱいの笑顔で立っているアンネがいた。
魔素溜まりに魔素がほとんど入っていない状態の魔法は、すぐに消えた。
「ここまで出来るとは、流石に思わなかったわ。」
ふぅ、と母さんは大きなため息をつく。
「アベルは5本指すべてに炎をともした。私はまだ2本。」
あー、ロッティーが落ち込んじゃった。
「アベル、本当にいつから出来るようになったの?」
落ち着きを取り戻した母さんが、静かに聞いてくる。
「5本指に灯せるようになったのは、3歳になる前かな。」
「じゃ、魔法を使えるようになったのはその前ってことね。」
「そうだね。その前。」
「言いたくないのね。」
「今はね。後で説明する。」
「ああ、そう。なら言いたくなったらでいいわ。でもこれだけは言っておく、あなたはまだ3歳。私の管轄外での魔法の使用は禁止します。いいわね。」
「はい、母さん。」
「分かったのならいいわ。さあ、アンネちゃん、魔素の取り込み練習するわよ。」
「はい!」
「あら、元気が出たわね。どうしたの?」
「アベル様の魔法を見たら、きれいだなって思って。私も使いたいなって思ったら、元気が出ました。」
「そう、良かったわ。アベルでも役に立つのね。」
おい、なんだよそれ。
「母さん、ちょっといい?」
「なに?」
「どうして僕が魔法を使えるって分かったの?何日か前から、カマかけてたでしょ?」
「あなた夜に炎とか明かりの出る魔法の練習をしていたでしょ。メイドたちの間で、アベルの部屋がおかしいって話題になってたのよ。」
ああ、俺ってば馬鹿だ。
「なるほど…そんな単純なことだったんだね。」
「そうよ、おまぬけさん。」
母さんはそう言って俺の頭をなでながら優しく笑った。
母さんの笑顔を見たら、なんだか隠すのが嫌になってきた。
「決めたよ。全部話す。」
「いいの?」
「うん、ただ、家族全員の前で話したいんだ。近しい人含めて。マリアさんや、マーガレット、アンネにヨハン、リサとローズも。」
「じゃ、ローランドの空いている時に、大広間を使いましょうか。本当にいいのね?」
「いいんだ。僕の大切な秘密をみんなに話すよ。とても大事なことだから。」
ここまで読んでいただき、有難うございます。
☆の評価ポイントとブックマークで得られる作者の栄養があります。
よろしければ、下にある☆とブックマークをポチっとしていってください。
どうかよろしくお願いします。
この作品を気に入ってくださると幸いです。




