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夫は耳を赤らめます。



「きみのことをとやかく言えないな。」

今でこそ言えるけど、と前置きをして、夫は話し始めた。

「あの頃、僕はきみを警戒していたんだ。使用人たちの態度に頓着してなさそうだったきみが、突然浮気だなんて言葉を出したから、僕からなにかを聞き出そうとしているんだと思ったし、それにしては核心を突こうとしないから、その意図を掴みあぐねていたんだ。結果、様子を見ようとはぐらかした。」


対立勢力の陣頭に立つ人物の娘だったから。

そう言われて、わたしの心は重く沈んだ。

あの領地での生活は、結婚前の情熱的な彼の思い出があったからこそ耐えられた。

たとえ夫の心変わりがあったとしても、わたしが恋愛をした結果を受け入れようと、耐えたのだ。

しかし、最初から、そんなものは幻だったのだ。

わたしはいったい、なににすがっていたのだろう。


「きみの両親が、きみを通じて僕を操るつもりなんじゃないかって疑って、必要以上に近づかないようにしていた。僕は誰かにコントロールされるのは嫌いだし。でもきみは僕の判断を狂わせるから。今思えば、きみを脅威に感じてた。」


「だったら、なんで結婚なんてしたのよ。」

声が震えないように、慎重に口を開いた。

思ったよりも弱々しい声になってしまった。


「王弟殿下との縁談が持ち上がったと聞いたからだ。」

「王弟殿下とわたしの婚姻が、あなたの不利益につながるの?」

「いや、そうじゃない。」

夫は唇を引き結んだ。

「王弟みたいな男と結婚したって、きみはきっと奴を好きにはなれない。‥‥王弟とだけじゃない。きみが、結婚してしまうかと思ったら、焦った。」


「話がよく分からないわ。」


「いや、なんて言ったらいいのか‥‥。」

夫はわたしの両手を握りしめ、胸の前へ持ってくると、わたしをまっすぐに見た。

彼の耳が、ほんのり赤くなっていた。


「きみを一目見て分かったんだ。きみは、僕の妻になる人だって。対立する相手の娘だってことはすぐに知ったし、きみを妻にするのに、あれほど不都合な時期はなかった。それでも、別の男と結婚しそうだと知って、いてもたってもいられなかった。」


驚きすぎて言葉が出なかった。

ぽかんと口を開けたまま、夫を見返した。


「きみが僕のもとを去ったとき、僕は陛下に膝を折りながら、悔しいどころか逆に愉快な気分だったよ。どこかで聞いた話を思い出していた。逃れようと遠くまできたと思ったら、それは大きな存在のてのひらの上だった、という話だ。右往左往していた自分が馬鹿らしくなった。結局、僕の世界はきみを中心に回っていて、僕がどうもがいても、巡り巡ってきみの望むとおりになるんじゃないかと思えたんだ。」


別にわたしは、夫が陛下に膝を折ることを望んでいたわけではない。

「わたし、あなたを操ろうだなんて、そんなこと思ってないわ。」

「分かってるよ。責めてるじゃない。霧が晴れたみたいに、清々しい気分だったんだよ。あれから、きみと少しずつ話をするようになって、分かったんだ。きみのために判断が狂うわけじゃなかった。むしろ僕の人生にとって正しいのは、きみなんだって。きみこそが、僕の真実なんだって。」




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