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欲しい答をもらいます。


最近、外に出ていない。

妊娠しているせいだと夫はいうが、身体のあちこちが痛かったり、ほてったりする。

その身体の変化に振り回されて、あまり気にしていなかった。

それでも、前に屋敷の外に出たのはいつだったろうと、ぼんやり考えた。

しかしその思考も、膨らんできたお腹を撫でているうちに霧散した。


子どもが生まれるというのは不思議なものだ。

みるみるうちに大きくなる。

いつ出産するのか、そのタイミングも自分では選べないらしい。

わたしのお腹で育っているのだから、宿主の意見を聞いてくれてもいいではないか。


「名前は、なにがいいかしらね。」

慣例で言えば、名前の一つに、古王国時代から代々受け継いでいる名前をつけることになる。

そのことに疑問を持ったことなどなかったが、いざとなると、それをこの子にも背負わせることが、当然のこととは思えなくなっている。

「わからないわ。どうしたらいいのか。」

ふぅ、とため息をついた。


それに、もう一つ気になっていることがある。

たまに、ふっと浮かぶ光景。

そっと裏口から去っていった、小さな少女の背中。

いまのわたしのように、ままならない身体で、あの娘はどんな気持ちだっただろう。

夫は見送りさえしなかった。

その冷淡さに、当時はほっとしながらも、どこかうそ寒さを感じていた。


夫は、本当になにも感じていなかったのだろうか。

見ない振りをしていたが、夫がしないというなら、夫婦である以上、わたしが代わりに責任を果たすべきではないのか。

もちろん、家に入れることはできないが、せめて生活に困らないように。


「あなたは、どう思う?」

「急になにを言うかと思えば。まったく、お嬢様はいつまで経ってもお嬢様ですね。」

幼馴染は、呆れたように眉を上げた。


「その使用人、ですか?に、付け込む隙を与えることになります。せっかく伯爵がうまくおさめた話でしょう?蒸し返すようなことをすれば、相手に余計な野心を抱かせることになりますよ。それは伯爵家にとっても、伯爵家に仕える者たちにとっても、さらに相手にとっても不幸なことです。第一、本当に伯爵の子かどうか。」


わたしはなにも言うことができなかった。

そう言われて安心している自分に気付いていたから。

責任を、と口では言いながら、つらかった領地での日々を思い出させることに積極的に関わりたくないというのが正直なところだ。


卑怯なことかもしれないが、幼馴染は、わたしが一番欲しかった答えをくれた。




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