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護衛ははにかみます。


廊下に出ると、わたしの護衛をしている幼馴染が、渋い顔をしていた。

「どうしたの?」

護衛はちらりと部屋の中に視線を向け、わたしを促して廊下を歩きながら口を開いた。


「どんな話をしていたんですか?」

「お金の話、かしら。」

「そうでしょうね。金貸しを呼び出す理由など。」

皮肉げな言い方に、彼は呼び出されている男がなにをしているのか知っているのだと分かった。


「知っているの?」

「あの男は、お母上のところへも、顔を出していましたから。身の程をわきまえない男です。伯爵はなぜあんな男をお嬢さまに近づけようとなさるんですかね。」


不満を隠せない護衛。

伯爵が彼をわたしに近づけようとしているのではなく、もともとわたしが知り合いだったのだが。


「悪い男ではないわ。義理堅いかたよ。」

「ならず者ですよ。」

「信念に従って行動しているわ。」

「金貸しのやりかたは、よく知っていますよ。関わっていい連中ではありません。」

「決め付けは良くないとあなたはいつも言っているじゃない。」

「金貸しは金貸しです。本人の性格がどうであれ、金貸しが出入りしていると知られれば、あなたの評判に関わります。高貴なあなたとは相容れない。」

「彼の生まれは金貸しではないのよ。」

「それならばなおさら。人には生まれつき、領分というものがあります。それを超えてはいけないんです。」

「そんなことを言うなんて、あなたらしくないわ。」


「これが俺のことなら、こんな小うるさいこと言いませんよ。あなたのことを思うからこそ、なんですがね。」


その言葉に、それ以上のことを言えなかった。

なんと返せばいいのか分からなかったのだ。

金貸しと関わることで評判が悪くなるだろうことは分かるので、彼はなにも間違ったことを言っているわけではないのだ。

彼の言い分には納得できないが、だからといって「余計なお世話だから放っておいて」と言うのは、なんだか子供っぽいように思える。


彼は、わたしに言い聞かせるためにあえて似合わないことをしている。

しかし、彼は本心以外のことを言っているわけではない。

普段口には出さないだけであって、そう思っていることに違いはないのだ。


わたしが、似合わない、と言ったのは、わたしが反論しても言い返してきたことについてだ。

めんどくさがりの彼が、そこまでして話を続けるのは珍しい。

常であれば、本心はどうであれ、納得したような顔をして「そうですね。」と返すのに。


わたしの表情を読んだのか、彼は苦笑をこぼした。

「似合わないことをしている自覚はあります。」

少しためらって、口を開いた。

「‥‥伯爵に触発されたのかもしれません。あのかたは、なにかと俺に話をさせようとするんですよ。」

「そうなの?」

「ええ。あれこれについてどう思うか、しきりに話しかけてきます。金貸しについても、話題になりました。伯爵とは考え方が違うんでアレですけど、話し始めたら1時間も経っていましたよ。伯爵の知識の及ぶ範囲は広いですね。でも、俺からしたらどうも急進的すぎて‥‥。」


戸惑いながらも、その口元は照れ臭そうにほころんでいた。

夫がこの幼馴染とそんなに話をしていたなんて知らなかった。

いまだに夫の行動の意味が分からないが、二人の距離が縮まったことは間違いないらしい。

「彼はなにがしたいのかしら?」

幼馴染は、さぁ、と首を傾げた。




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