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二人は膝を突き合わせます。



恩返しだと青年は言うが、わたしがしたことなど、彼が小作人から自由民になれるように金を貸しただけだ。

彼はそのお金で小作地を離れることを許され、商人になるという夢を叶えた。

貸したお金もすぐに返してもらったし、その後も資産を増やしてもらっている。

恩があるのは、むしろわたしのほうだ。


「でも、ほんとにオレでいいんですかね?」

かつてわたしが援助した青年は、凛々しい笑顔でまっすぐにわたしを見た。

かつてと同じようによく日に焼けていたが、以前は土で黒くなっていた爪は、すっかりキレイになっている。


「家令から、頼りになるかたとして、あなたを紹介されたわ。むしろ、来ていただいて迷惑じゃないかしら?」

「それはもちろん。恩返しもありますが、面白そうだっていうのもありますからね。」

青年は、わたしの隣に座っている夫へ顔を向けた。


「オレは貴族連中に嫌われまくってるんですけど、そのあたりは大丈夫ですかね?」

あけすけな物言いだが、不快にはならなかった。

夫も同じのようで「問題ない」と頷いた。


「わたしも彼らの考え方は知っている。返済する見込みがないのに、後先考えずに借りようとする。返す気もないと奴らに貸す必要はないさ。」

わたしは青年が貴族に嫌われていること自体知らなかったが、夫はどうやら心当たりがあるようだ。

貴族がお金を借りたいと青年に頼み、青年が断ったことが原因で嫌われたということか。


「あなたの噂を聞いて、ぜひ会ってみたいと思っていた。今回紹介されたのがあなたで幸運だった。一度聞いてみたいと思っていたんだが、どうして金を貸す時に、手数料ではなく、あえて利子にしたんだい?」

目を見開いたわたしに、青年は説明をしてくれた。


貴族たちにお金を貸す話をしていたのは、てっきり個人的な貸し借りだと思っていたが、仕事として金貸しをしているという。

強欲は罪だ。

金貸しというだけで胡乱な者という扱いを受けるのに、貸す時に手数料ではなく利子を取るなど、あこぎとして蔑視される。


明確な禁止はされていないのだが、利子を取ることは社会的な信用を損なう。告発を受けることも多く、一度告発されれば、都の警察たちは冤罪だろうがなんだろうが、しょっ引いていくことだろう。

さらに、貴族に嫌われているということも立場を危うくする。領地で裁判権を持つ貴族たちは、都でもある程度その判断が尊重される。そのため、私刑も黙認されることが多いのだ。


「危険は承知の上です。」

青年は胸を張った。


「なぜ手数料にしないんだい?」

夫が質問すると、あっけらかんとした答えが返ってきた。


「もうけたいからですよ。」


「もっともうけて、たくさんの人にお金を貸したいんです。資金を必要としている人はたくさんいます。資金さえあればうまくいく事業もたくさんあります。でも、資金がなくてうまくいかない事業もたくさんあるんです。オレは、そういう人にお金を貸しているんです。貴族たちがドレスや馬車を自慢するために、金を貸すわけじゃない。」


夫が目をキラリと光らせた。

二人が膝を付き合わせて詳しい話に入ったので、話の分からないわたしはそっと席を外した。




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