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家令を呼びます。



「きみのところの家令を借りたい。」と夫が言い出した。

そういえば、以前家令に、夫から声をかけられた話をされた。

そのときは、財産の話かと思ったが、詳しく聞くと、教育施設を作りたいとのことだった。

教育内容は、読み、書き、計算。それにお金について。


夫は北西方面の経済システムを輸入しようとしているが、どんなに優秀なシステムがあっても、担い手がいなければ意味がない。

貨幣は浸透してきたが、その運用についてはまだ始まってもいない。


「どんなに立派なマニュアルや法律があろうが、それが形式上のものだとみなが共通認識を持っていたら、機能しないのと同じことだよ。」

夫の言うことは難しくてよく分からないが、そういうものだろうかと首を傾げる。


「つまりね、本当はやらなきゃいけないことになってるけど、ある行程が、通例上、省略されています、なんてよくある話だ。だから、皆がシステムがきちんと守られるようにするために、共通認識を変えなければならない。マニュアルにはきちんと従うってことをね。今のままだと、労働の対価として報酬が出ることすら、納得しないだろう。」


きみのところの家令はおもしろい経歴の持ち主だ、と夫は言う。

わたしは知らなかったが、なんでも北西方面出身で、例の教育システムのために借金があったのを、わたしのお母様に直談判して、肩代わりしてもらったらしい。


「実は、彼が経営している領地は、僕が目指している形に近いんだ。北西方面出身というだけあって、領民たちへの説明もうまい。領民たちは、大きな反発もなく教育を受け入れている。中途半端に輸入をしようとすれば、むしろ北西方面の思うがままに喰い尽くされてしまうが、意欲があるものにはもっと上位の教育も施して、システムに従う側、システムを運用する側、システムを利用する側がバランス良く存在している。」



夫の話を、そのまま家令への手紙に書いた。

わたしは夫の言葉の意味が理解できなかったので、そのまま伝えたほうがいいだろうと思ったのだ。


家令からの返事は、なんだか長々しく「素晴らしいお考えで」「わたくしなど」と書いてあったが、結局のところ、参考にしたいならご自由にどうぞ、というもので、積極的に動くつもりはなさそうだった。



直接話がしたい、という夫のために、わたしはまた手紙を書いた。

「お話しは一度、お断わりさせていただいているんですがねぇ。」

家令は後ろ向きなことを言いながらも、すぐに駆け付けてくれた。


「わたくしがしていることなど、簡単なことです。ちょうどいい簡単な物語の話集があるので、それを週に一度の集会のたびに読み聞かせるだけです。絵本を用意してやれば、そのうち、簡単なものなら自分で読む者も出てきます。押し付けは反発されますのでね、興味を引き出す形でやるように心がけていますがね。それくらいです。」


それは教えてくれたが、やはり領地を離れる気はないという。

「実は、最近新しい事業に取り組んでましてね。そちらに集中しているのですよ。」

代わりに、頼れる者を紹介しましょうか、と言われてやってきたのは、前にわたしが援助をした、あの商人だった。

立ち上げた事業が自分の手を離れたところらしく、顧問として関わってはいるが、すべて下の者に任せても回るようになっているらしい。


「やっと恩返しができます。」

かつて会った時よりも、はるかに自信にあふれた青年が、そこにはいた。




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