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緊迫した状況です。



夫が家臣たちへの指示を終えて戻ってくるまで、しばらくかかった。その間、わたしは自室で待っていた。

とても一人でいることはできなかったので、室内に護衛がいてくれたことは心強かった。

それでもやはり、夫が戻ってきた途端、緊張の糸がふっと緩んだことは分かった。


夫もまだ気が高ぶっているらしく、目をらんらんと光らせている。

「男爵が来たのと同時に屋敷の周囲を探らせたら、案の定あやしい人影があったそうだ。おそらく、王冠を狙っている連中だ。王冠がここにあることは、知られてしまっていると考えていい。」

「どうしたらいいのかしら‥‥。」


不安そうなわたしの表情を見て、夫は瞳を和らげた。

ふぅ、と息をひとつついてから、わたしの目を覗き込む。


「一番いいのは、きみのお母様に預けることだな。きみはまだ表舞台に立っていない。立場をはっきりさせているきみのお母様なら、混乱はないだろう。」

わたしはなにも言うことができず、胸を上下させていた。息を吸うのが苦しい。


男爵の最期の姿が頭から離れない。

彼は、自分の命をかけて、家族や家臣すら犠牲にして、王冠を守った。

そして、それをわたしに託したのだ。


受け取ったわたしが、あっさりとその覚悟を無にしようとしている。

わたしの行動が、彼らの死を、無駄にしてしまう。


このまま王冠を持っていては、北西方面の期待を受けることになる。例の後継者に渡すのは、陛下と対立することになる。逆に陛下に献上すれば、北西方面と対立することになる。


夫が言う通りだ。

決定を下すことができないわたしの代わりに、夫が言いにくいことを言ってくれていることは分かっている。


夫はわたしの出方をうかがっている。


「もちろん、別の方法をとることもできる。きみがどうしたいか言ってくれれば、どんなことでもいい、僕はそれを叶えるために動くよ。」


わたしは、決められなかった。

男爵の命をかけた願いを聞き届けてあげたい。

でも、そうすると、身の危険がふりかかる。

身近な人にも、迷惑がかかる。


「どうなるかは考えなくていい。どうしたいかだけ考えてくれればいい。それを叶える方法は、僕に任せて。」


平和に暮らしたい。

不安に怯えることなく。

人から傷つけられることもなく。

このまま、古王国など無関係でいたい。


人の期待に応えられるようになりたい。

人の気持ちを、受け取れるように。

不安に囚われることなく、自由な心で動きたい。

わたしに願いを託してくれた人に、報いたい。




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