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真夜中の訪問者です。



夜中に、護衛の男が寝室に駆け込んできた。

「客人が来ております。どうしても奥様にお会いしたいと。」

こんな深夜に人を訪ねるなど、無作法だ。

しかも、眠っているところを起こすなどと。


しかし、護衛の表情は緊迫していて、非常事態のにおいがした。

夫は素早く寝台から降り、ガウンを羽織った。

寝台のそばに隠してあった剣をさりげなくガウンの下に隠しているのが見えた。


別の護衛が続いて寝室の入り口に控えているのを見て、夫はわたしの幼馴染の護衛を呼んだ。

「わたしが出る。妻を頼む。」

そう言って夫は寝室を出ていった。


わたしはもたもたと寝台から降り、ガウンを羽織った。

「いったいなにがあったの?」

護衛に尋ねた。


「男爵を名乗る男が、単身、ボロボロの状態で来たんです。ひどい傷を負っています。」


「わたしに会いたいと?」


「そう言っていました。」


ばっと扉に駆けようとしたら、護衛に止められた。

「危険です。安全が確認されるまでお待ちください。安全で、かつ会う必要があれば、伯爵が呼びに来るでしょう。」


「でも、彼になにかあったら。」


「あなたが行ってもなにもできませんよ。」


「それは、そうかもしれないけど‥‥。」


そうこうしているうちに、夫がやってきた。


「きみに直接渡したいものがあるそうだ。一緒に来てくれ。」


安全が確認されたということなのだろうが、依然として夫の表情は硬い。

男爵と言われても、会ったこともない相手だ。

渡したいものとは一体なんだろうか。


応接間に入った途端、むっとした空気がした。

泥にまみれ、血に汚れて、椅子に座ることすらできずにうずくまるこの男が、男爵ということか。


男は、胸に大きな木箱を抱えていた。

ちょうど、人の首が入りそうな大きさだ。

男爵のあまりに凄惨な様子に、思わずそんな想像が頭をよぎった。


「おぉ、あなたが‥‥。」

男爵はしわがれた声を絞り出すようにして、震える腕を伸ばした。

わたしはひっと息をのんで、一歩後ろに下がった。

しかし男はよほど力が残っていないらしく、腕を落とした。


わたしは立っているのもやっとの状態だった。

もしかすると、夫が身体を支えていなければ、膝からくずおれていたかもしれない。

しかしこのときは、そんなことすら考えることができなかった。


力のないはずの男爵だが、目だけはギラギラとこちらを見つめていた。

その視線に執念を感じる。


「これを、あなたに、託したい‥‥。あなたにこそ‥‥ふさわしい‥‥。」

男爵は固く抱きしめていた腕を開き、大きな木箱を示した。


「きみに直接でなければ渡さないと言うんだ。僕が開けよう。」


進み出た夫を、護衛たちが引き止め、箱を開け始めた。


「男爵は、これを代々密かに守っていたという。それが、突然襲撃を受け、これだけを抱えて、ここへ来たそうだ。一緒にいた家臣たちも、追っ手によって次々と倒れたという。」


木箱からうやうやしく出されたのは、王冠だった。

わたしはこれを見たことがある。

母后陛下からいただいた絵の中で。


男爵に視線を移すと、彼は微動だにせず、目を見開いていた。


「息を引き取ったようだ。」




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