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母后陛下は離宮へ行きます。



母后陛下に呼ばれ、王宮へ行ったときのこと。

以前よりも、母后陛下の部屋ががらんとしていて、なんだかよそよそしい空気が漂っていた。


母后陛下はわたしを見て、穏やかにゆっくりと頷いた。

「わたくしはここを離れることになりました。離宮でゆっくりするようにと、陛下の仰せです。」

それは、どういう意味だろうか。わたしは何も言えずに、口をパクパクと動かした。


「このように老いて、なんの役にも立てぬ身です。人の多く騒がしいところよりも、離宮で心穏やかに過ごすほうが良いのかもしれません。見えてしまうと、どうしても口を挟みたくなってしまいますものね。」

母后陛下の言葉は、まるで自分に言い聞かせるかのようだ。


宮廷内で母后陛下と陛下が衝突しているというのは、あまり聞いたことがない。

ただ「宮廷の良心」と呼ばれる母后陛下がいなくなることで、これから宮廷の空気が変わるだろうことは分かる。

これまでは、不正や悪徳があれば、母后陛下を通じて陛下のお耳に入れることができたものも、そうはいかなくなるだろう。

政治というのは、いつの間にか始まり、気付いたときには終わっている。

なにもできない自分が不甲斐なくなった。


「離宮へ行くことが決まってから、この通り人が離れていきましたから、本当はあなたもわたくしのもとに呼び出すべきではないと思ったのですがね、どうしても、譲りたいものがあったの。」

侍女が動き、わたしの背丈と同じくらいの高さの絵から、白い布が取り払われた。

「古王国王宮の壁画を写したものよ。壁画はすでに破壊されているから、これはとても貴重なもの。」


そこに描かれていたのは、古王国の女王の肖像画だった。

いつの時代のものかは分からないが、頭上には王冠が輝き、指には指輪がはめられ、王笏と宝剣をそれぞれの手に持っている。

古王国の王位にとって、これらのものは非常に重要で神聖なものであり、特に王笏はその持ち主を自ら選び、王の資質のない者は、その杖を手に持つことさえできないとされている。

女王の指にはまっている指輪については、わたしの宝石箱に入っているものと似て見える。

なんだか深く考えるのが怖くて、あまり視界に入れないようにした。


わたしは絵から目が離せないまま、乾いた口で呟いた。

「そんな、大切なものを‥‥。」

母后陛下は、絵に向けていた視線をわたしへと向けた。

「よいのです。きっとこの絵も、持つべき人のもとへ行くことを望んでいます。」



「古王国に関係するものは王宮が陥落した際のどさくさで持ち出され、ばらばらになっていると聞く。母后陛下もこの絵をどこで手に入れたかは分からないが、言われた通り、歴史の資料として、とても貴重なものだよ。」


夫の顔を見てすぐに相談をしたら、夫は難しそうな顔をしていた。

母后陛下のことを尋ねると、

「母后陛下が少し政治に食い込みすぎたせいで、陛下の立場が少し悪くなってしまったんだ。それで、自ら引こうと、離宮へ行くことを決めた、という話になっているよ。」

と答えた。


「そうなの‥‥。」

母后陛下の口ぶりでは、そのようには聞こえなかった。

政治の世界は難しい。




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