護衛はお腹を見つめます。
「あー、行きましたねぇ。あの超アウェイな直轄領。」
護衛となった幼馴染が、思い出しながら苦い顔をした。
その気持ちはわたしも同じだ。
わたしと共に居心地の悪い空間に放り込まれた幼い彼は、始終身体を強張らせていた。
「それで、例の直轄領関係は、けっこう難しいんですか?」
「そうみたいなの。子どもができると危険が増すかもって言ってたわ。あ、子どもができたかもしれないのよ。」
さらっと言うと、護衛は目を丸くしていた。
護衛に教えることは、昨夜夫から提案された。
「護衛の彼にも伝えておいたほうがいいな。‥‥きみから言うかい?」
なぜか気遣わしげに「言いにくければ、僕から伝えてもいいよ。」と言われた。
子どもができるのは嬉しいことなのに、言いにくいことなどあるのだろうか。
そうか、夫婦の営みの結果なので、一般的には気恥ずかしいものなのかもしれないな、と理解したが、わたしは別に気にしないので「わたしから言っておきますよ。」と夫には伝えてある。
「それは‥‥おめでとうございます。」
「ありがとう。」
「一時はどうなるかと思いましたけど、良かったですね。」
わたしと夫でさえ、あのときのことにはあまり触れないのに、この幼馴染はずばりと口に出す。
「そうね、なんだか、結婚し直したような気がするわ。いまは新婚気分だもの。」
「はいはい。」
やはりどうでも良さそうに片眉をひょいと上げた。
「まだぜんぜんお腹は出ていませんね。」
わたしはまだぺったんこなお腹に両手を当てた。
「そうよね。ほんとにこの中にいるのか、不思議に思えるわね。」
護衛はわたしに近付き、腰を折ってまじまじとお腹を見た。
「そうですね。大きくなってきたら、蹴るっていいますよね。俺、あれが不思議で仕方ないんですけど。どれくらいになったら蹴るんでしょうね。」
トントンとノックの音がして「入るよ。」という声と同時にかちゃりと扉が開いた。
わたしと護衛が同時に扉を見ると、部屋に入りかけて固まっている夫がいた。
「どうしたんですか?」
わたしは夫に尋ねると、夫は我に返り、気まずそうに「いや、急ぎの用じゃないから出直すよ。」と言って去っていった。
わたしは、なんだったのだろう、と首を傾げた。




