母へ報告します。
夫から妊娠のことを告げられた翌日、いてもたってもいられずに母のところへ駆け込んだ。
母は一瞬呼吸を止めて、にっこり笑顔で「おめでとう」と言った。
「それで、わたくし以外には誰か報告したのかしら?」
「いいえ、まだなんです。お母様には伝えていいと言われているんですけど、まだ確かではないから口外しないようにと。」
落ち着こうとしているのに、つい息急き切って話してしまう。
対する母は落ち着いたものだ。
「そうね。そのほうがいいわ。」
母は少し考え込んで、口を開いた。
「それで、伯爵はどうして口外をしないようにと言っているのかしら?」
母が首を傾げるので、わたしも同じように首を傾げた。
どうして、とは。
ついさっき理由を言ったばかりではないか。
なぜ同じやりとりを二度もしたのかは分からなかったが、分かりづらかったかと思い、言葉を足した。
「まだ確かではないから、と。まだできていないかもしれないし、それに、できていたとしても‥‥考えたくないんですけど、生まれてこれない可能性も‥‥。そういう子もいるんですって。」
「そうね。ぬか喜びに終わってしまったら、ショックも大きいでしょう。生まれてきてくれたら嬉しいわね。」
母は突然話を変えた。
「ところで、わたくしが一年に一度、陛下の直轄領へ赴いていることは知っているわよね?」
「はい。」
「では、そこでなにをしているかも、理解していると思っていいわね?」
「もちろんです。一年に一度の式典に、陛下と共に出席されています。領地内の有力者たちの集まるその式典で、わたしたちが陛下に属するものだということを示すために。」
「えぇ、わたくしたちの立場については、常々あなたに話をしている通りです。式典で、わたくしが臣下の一人として陛下に膝を折ることが大切なのです。それが、身を守ることになる。わたくしに、もしものことがあったら、あなたが務めるのですよ。」
縁起でもない、と顔が強張った。
この母に「もしものこと」など、起こるはずがない。
「少し厳しいことを言います。あなたが伯爵の元へ走ったことは、一部にとって好意的に受け取られませんでした。でも、少し前に伯爵が折れたことで、若い勢力と旧勢力とをつなぐ架け橋として、あなたに期待の目が向けられつつあります。今回のことは、その象徴のように映るかもしれませんが、その分もしものことがあれば、落胆も大きいでしょう。」
わたしは母の話についていこうと、必死に耳を傾けた。
「そして、直轄領について。伯爵はすでに、古王国復活を目指す団体から伸ばされた手をはねのけ、復活を望まない立場を表明しています。ただし、直轄領内の経済システムについては、大いに関心を寄せているようです。これはわたくしの考えなのだけど、学ぶところが多いとしながら、あえて距離を取っているのは、あなたのためではないかと思うの。子どもが生まれれば、わたくしたちの危険が増す可能性もあります。復活を掲げている団体は一つではありません。それに、後継者を名乗る男も出現しています。これを機に、あなたの夫とよく話し合い、夫婦の足並みをそろえなさい。」
母の屋敷からの帰り道、行きに浮かれていたのが嘘みたいに、わたしは深く考えに沈んでいた。




