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髪飾りは宝石箱の中です。




「ねぇ、あなた。あのサロンに出入りしているって本当なのぉ?」

侯爵夫人の屋敷に行ったときに、彼女から質問された。


公園で会った、公爵から屋敷を譲られたという例の女性から誘いを受け、一度顔を出したことがある。

気後れしてしまって、質問されてもしどろもどろでうまく話せず、話題はすぐに別のものに移ってしまった。

それ以降はひたすら聞き役に回ることしかできなかったので、次に行くかどうかは分からない。


「あんな娼婦のサロン!もてはやされてる意味が分からないわぁ。」

どうやら友人は、あのサロンの主催者のことが好きではないようだ。


「温かみのあるかただったわよ。」


「ふぅん?毒されちゃって。わたしだってサロンをひらけば、それなりの紳士たちが集まるのよん。」


わたしはふと思いついて「伯爵も?」とたずねた。


「伯爵?そうねぇ。話題性はあるけど、彼が来るとサロンの中心が彼になっちゃうじゃない。邪魔だから来なくていいわん。」



そういえば、サロンで変なことを言われた。

「銀細工の髪飾りは、付けていないんですか?」と。

なんでも、夫とともに地方の視察に行ったらしい貴族の男性だったが、わたしが首を傾げると「あいつ、おみやげを買っていきませんでした?」と、彼も疑問顔だった。


「視察の途中で、こそこそ出て行くからなにかと思ったら、銀細工の店に入って行ったんですよ。」

にやにや笑いで話した内容は、ミナに渡していた銀細工のことだと分かった。


「別のかたに買っていったものでは?」とやんわりと言うと、男は「あなたと同じ髪と瞳と肌の色のかたが、他にもいらっしゃいますか?」と自信ありげに返した。

いるはずがない、とその瞳が言っている。

たしかに、わたしと同じ色の髪、瞳、肌の人間は母しか見たことがない。


「彼にしては珍しく、店主の言葉まで参考にして選んでましたよ。店主に贈る相手の特徴を聞かれて、あなたのことを答えていました。」


そこまで言われると、わたしが思っているものとは違うのだろうか、と訳が分からなくなる。


これまで夫に銀細工の髪飾りなどもらったことはないし、心当たりがまったくない。



数日後、寝室へ入ると、むっつりした顔をした夫がベッドの上にいた。

「今日、友人から聞いたよ。この前のサロンで、きみに面白くもない話をしたらしいね。」

一瞬、なんの話か分からなかったが、銀細工の髪飾りのことだと気が付いた。

「きみに渡していないのはどういうことかって聞かれたよ。どうしてなにも言わないんだい?」

「どうしてと言われても‥‥。わたしへのおみやげがあったんですか?」


はぁ、と夫がため息をつき、ベッドの横に突っ立ったままだったわたしをベッドの上に引き寄せた。

「きみが投げつけたあれがそうだ。買って帰ってから、きみが似たような髪飾りを持っているのに気が付いてね。」

そういえば、銀細工の髪飾りは持っている。しかし、自分でも覚えてないくらい長く、宝石箱の中に入ったままだ。

それのことを言っているのか。


だからといって、わたしのために買ったものを他の女に渡すのはどうかと思う。

「それでも、くださったら、嬉しかったのに。」

複雑だ。

嬉しい気持ちがじわじわと湧いてくるが、同時にあの時の怒りが蘇ってくる。


「今度、髪飾りを一緒に買いに行こう。」

夫はわたしをぎゅっと抱きしめた。




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