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サロンの主催者に会いました。




最近、公爵家の所有する屋敷の一つに、美しい女性が移り住んだと聞く。

なんでも、没落した貴族の血筋で、詳しいことは不明だが、公爵の愛人ではないかと言われている。

公爵がよく連れ歩いていたために貴族の中では顔が広く、夫も彼女の顔を見たことがあるという。


「とても教養のある女性だよ。よく笑う、朗らかなかただ。」


表現の仕方に敬意が感じられるところを見ると、男性の間でなかなか丁重な扱いを受けているようだ。



その女がどうした、と言われると、いまわたしの目の前にいる。


公園を散歩している途中で、ふと木々の向こうに見えた例の公爵の屋敷の屋根を見つめて立ち止まっていたら、話しかけられた。


「あの尖塔が素敵だとは思いませんか?」


振り返ると、優しげな微笑みを浮かべる、むっちりとした女性がいた。


「あれは、何代も前の持ち主が、その妻を愛するあまり閉じ込めていた塔だと伝えられているわ。」


屋敷から一カ所、ポコっと突き出た部屋が、女の言うそれだろう。


「いまはわたしが一人になりたいときに使っているの。」


「あなたが?では‥‥。」


「そう、わたしがあの屋敷の所有者。住まわせてもらってるんじゃないわ。前の所有者だった公爵はわたしの友人で、彼から譲り受けたの。」


公爵の愛人だからか、と思ったことが透けて見えたからか、それともそう探りを入れられることに慣れているからかは分からないが、わたしが聞くより先に彼女は言った。



帰ってから、夫にそのことを伝えると、夫は少し考え込んだ。


「公爵が彼女に惚れていたことは確かだけど、どうかな。愛人だったかどうかは分からない。」


「そうなの。」


わたしはまたしても男女関係の不思議さを垣間見た気がした。

もの思いに沈むわたしに、夫は声をかけた。


「彼女のサロンには、多くの宮廷人が出入りしている。彼女のお眼鏡にかなえば、きみも誘われるだろう。」


「もし誘われたら、どうしたらいいかしら?」


「きみはいま、話題の人だよ。僕が各地の友人に声をかけて、宮廷に呼び戻していることは知っているよね?僕に行動を起こさせた妻として話を聞かれるかもしれない。それとも、王の直轄領の件で、意見を聞かれるかもしれない。」


思わぬことに目を白黒させていると「どちらにしても、きみの好きなようにするといい。」と夫はわたしの頭をなでた。


好きにしていいと言われると、それはそれで見放されているような気がしてさみしい。


「あなたはどう思っているのか聞かせてほしいの。あの護衛のことだって、あなたの本心が見えないわ。」


「サロンに出入りするのは、これからのきみにとって有用なことだと思っている。護衛のことは‥‥そうだな。これも、きみのため‥‥かな。」


似合わないしんみりした表情など見せて、いったいどんなことを考えているのか。


この屋敷に移って一度は夫が近く感じたのに、やはり、遠い。

浮気をしなくなって障害がなくなったと喜んでいたのに、それだけが問題ではなかったのか。

どうしたら夫が近くなるか分からず、わたしは悔しさを隠すように夫を抱き締め、その胸に顔を伏せた。




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