表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/54

護衛が付きました。




「あなた?」


夜、目が覚めると、頬杖をつき身体を横にした夫が、わたしの髪をなでていた。

最近、よくこういうことがある。

昼間も、夫はふとなにか考え込み、わたしが視線を向けるとごまかすようにほほえむのだ。


「眠っていてくれ。」


「‥‥なにかあったの?」


わたしはされるがままに髪をなでられながら、気持ちよさに目を細める。


「ちょっとね。」


「言って。じゃないと不安になるわ。」


静かな空間に、二人の声がそっと空気を揺らす。


「これまでのことと、これからのことを。」


「これまでのことと‥‥これからのこと‥‥。わたしたちの?」


「そう、僕たちの。」


わたしは身体を横に向けて、夫と向き合った。


「なんかこわいわね、そんなに考え込むようなことがあったかしら?」


冗談めかして笑うと、夫もふっと笑い「もう寝よう。」と瞳を閉じた。




人を呼んである、と言われ応接間で待っていると、入ってきたのは、あの父の侍従だった。

彼はわたしの前に来ると、靴をカッと打ち鳴らして両足をそろえ、胸を張った。

「今日からよろしくお願いします、お嬢様。」


「はぁ?」

思わず眉間にしわが寄った。


彼の後ろから入ってきた夫を見ると、なんとなくつまらなそうな顔をしていた。


「どういうことですか?」

「彼は機転も利くし、腕も立つ。きみも気兼ねすることがないし、護衛としてはちょうどいい。」

夫は肩をすくめてそう答えた。


「護衛だなんて‥‥。どうして急に。」

わたしは戸惑って、視線を夫と父の従者の間で行ったり来たりさせた。

「前々から付けようとは思っていたんだ。適任者がいなかっただけで。」


「さて、僕はこれから行くところがある。早速、今から護衛の仕事に当たってくれ。」

そう言って、夫は部屋を出て行ってしまった。


「彼がなにを考えているのか、さっぱり分からないわ。あなたたち、いつの間に分かり合ったの?」

夫がいなくなった途端、彼は肩から力を抜いた。

「なんにも分かり合っちゃいませんよ。ただ、伯爵がお父上のところに急に来て、俺を貸してくれって指名してきたんです。俺も聞きたいですね。これって伯爵の罠ですか?」


二人を接近させて泳がせてから、浮気の現場を押さえようと?


「夫婦仲は円満よ。」

「あぁ、それは結構ですね。」

男はどうでもよさそうに片眉をひょいと上げた。


「まぁでも、実際、俺以上の護衛はいませんよ。例の自称後継者、かなり勢力を拡大してますからね。お嬢様の身が危ないのは本当です。」


わたしと母の立場は微妙なものだ。

後継者として立とうとする者からしたら、邪魔で仕方ないだろう。

わたしたちがいなくなれば、後継者の正当性の順位は繰り上がる。


一方、利用すれば、自らの地位をより磐石にすることができる。

例えば、誘拐して婚姻を結ぶ、とか。

その場合は、母よりも、子を産む確率の高いわたしのほうが、より危険は大きい。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ