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疑わしければ問いただします。




屋敷に夫の友人がやってきて「今夜はうちで飲まないか。」と夫を誘った。

「夫人、こいつは借りていきます。」

「遅くなるから、先に寝ていてくれ。」

はいはい、とわたしは二人を見送った。



後日、夫の友人が夫婦喧嘩をしたと聞く。


なんでも、妻が実家に行っている間に家に商売女たちを呼び、そのまま夜の相手をしたという。


その友人とは、この間夫が遊びに行ったところではないか。



しれっとした顔で夕食をとる夫。

わたしがなにも知らないとでも思っているのだろうか。


じっと手を止めて見つめていると「なにかあったか?」と夫がわたしを見返した。


言葉が口から出て来ない。

問いただしなさい、とわたしは自分に命令した。


「お友だちの家に飲みに行ったとき、女も来ていたの?」


「あぁ。」と今思い出したような顔をしたが、その直後、きゅっと表情を引き締めた。


「とりあえず、夕食を済ませてからだ。」

ごまかされたようでモヤモヤしたが、たしかにここでは給仕たちの目もあるので、おとなしく従うことにした。


部屋に行き、二人掛けのソファに並んで腰掛ける。


「僕は奴らの乱痴気騒ぎに参加していない。」


「‥‥。」


「本当だ。女を呼ぶというから、止まり木亭の女なら呼んでいいと言っだけだ。」


「っ!!」

バッと夫を振り返り、睨んだ。


「いや、違う。待て。言葉が足りないな。つまり‥‥止まり木亭って知っているか?最近、すごく質の良い女を扱ってるっていう噂のところだ。踊り子から楽師から話し相手まで、いろいろ取り揃えている。」


だからなんだ、とわたしは半眼になった。


「その後ろにいるのが怪しくて、営業方法や背後関係を調査してるんだよ。」


「そうなの?」

その言葉の冷ややかさに、疑われているのが分かったのだろう。

夫は一瞬ムッとした顔をしたが、すぐに表情を改めて「そうだ。」と言っだ。

最近、夫の表情が読めるようになってきた。


「鉄壁の守りで、なかなか実態が見えなかったが、少しだけ分かってきた。店主は、ただ別の人間から経営権を買って経営するだけ。実際の権限はその経営権を売った側にあるらしく、女たちもそこから派遣してもらっているらしい。」


「それで、なにかあなたに関係あるのかしら?」


「そんな経営手法を取りそうなところに心当たりがある。‥‥北西方面だよ。」


たいていの人間に対して苦手意識のない夫だが、その夫に、極力相手にしたくないと言わせるのが、あの北西方面の方々だ。


北西方面と呼んでいるのは、かつて古の王国のあった地域のことだ。


かの土地はかなり扱いが難しく、多くの秘密結社の本部があると言われていたり、奴隷の一大市場があったりと、この国の一部になって長い時間が経過しているというのに、独特の文化を保っている。


さらに、あの地域出身の学者は各国に散らばり、各国の政財界の深いところに食い込んでいる。

世界を裏で操っているとまで言われているのだ。


そのため、陛下でさえもその土地の民には敬意を払いつつ、警戒している。


わたしと母に、深く関係することでもある。


古の王国の末裔たちは、今でもかつての王を得て王国の再生することを願っているというのは、それほど隠された話ではない。


母もわたしも古の王国の後継者となることを望まないが、それを望む者たちもいるのだ。




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