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男の純情の使い分けは難しいです。




領地にいた頃とは違い、お茶会や舞踏会などに招待されたり、お返しに招待したり、さまざまな催し事がある。

なにせ、飛ぶ鳥を落とす勢いの伯爵である。

制度改正に関して、これまでの大臣が更迭され、伯爵の推す人物が就任したところだ。

みんな興味津々である。


屋敷の改装やドレスの新調のためにあちこち出かけていると、あるお店の前で見たことのある姿を見つけた。

彼は、宝飾店の前をうろうろとしている。


「入らないの?」


声をかけると、飛び上がって驚いた。


「あなたでしたか。」


ほっと息をついたのは、侯爵夫人のところの若者だ。

「お店になにかご用かしら?」

若者は、珍しくあたふたして「なんのことですか?」と、宝飾店を隠そうとでもしているのか、わたしの視界をさえぎった。


ちらりと視線を彼の背後に向け「誰かの付き添い?」と質問した。


するとそのとき、少女が二人、はしゃいだ声でぺちゃくちゃ話しながら、店から出てきた。

その声に、若者の背がぴきんと固まる。


「あら。」


道の隅に移動して、諦めた若者が説明してくれた。

彼女は侯爵夫人の友人の家で小間使いをしている少女で、お茶会の付き添いにやってきたときに一目惚れしたそうだ。


「彼女は天使です!」と鼻息荒く言うものだから「金持ちの女との結婚はいいのか」とからかう言葉はしまっておいた。


「それで、ここでなにをしていたの?」


「そ、それは‥‥。」


言いにくそうにしていたが、これも聞き出した。

店に入っていくのを偶然見かけたので、どんなものを選ぶのか、開きっぱなしの扉の隙間からこっそり見ていたようだ。

彼女に何かプレゼントをしたいんです、と若者は頬を赤らめた。


女性が好きなものについて色々質問されたので一般的なものを答えると、彼は髪に飾るサテンのリボンを購入した。



後日彼に会ったので、首尾を尋ねた。

「あぁ、あれですか。他の女にやってしまいました。」

どうして、と驚いて聞くと、なんともはっきりとしない答え。

どうやら、うだうだと考え過ぎて「こんなものをプレゼントしても。」とすっかり自信をなくし、諦めてしまったようだ。


がっくりと肩を落とした彼に、かける言葉はなかった。


大人の世界を知っている彼だが、それがかえってこういうことを苦手にさせているのかもしれない。




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