無防備な姿は感動ものです。
「きみは、さぞ僕のことを簡単な男だと思って、ほくそ笑んでるんだろうな。」
ベッドで寄り添って横になっていたら、夫がまるで独り言のように、そんなことを言った。
夫が簡単な男であったことは一度もない。
むしろ難しい。
「自分でも、ちょっとどうかと思う。こんなことで許してしまうなんて。」
まだ言うつもりか、と呆れてしまう。
それを言い出すなら、わたしにもまだわだかまりがあるのだ。
夫が、わたしのことを理解しようと努力するより先に、罪人として捕らえようとしたことについて。
話し合おうと言っていたのに。
変わると言っていたのは、やっぱり口だけだったではないか。
そうなると当然、忘れていた不満も出てくる。
確かにわたしは逃げ出したが、そもそも使用人に手をつけまくる夫が悪い。
そう訴えたいのだが、命の危機がとりあえず去ったとはいえ、まだわたしの分が悪いので口をつぐんでおく。
その代わり、そっと、夫の脇にもぐりこむ。
夫は、わたしの髪を片手でいじりながら、
「僕も考えたよ。領地の屋敷が嫌なら、この屋敷に移るか?」
と質問した。
「いいんですか?」
「あぁ。僕にとっても都合がいい。」
あえて宮廷から遠ざかっていた夫がそう言うのは、今回父との取引によって、陛下に伺候したことが原因だろう。
「陛下のもとへ行かれたとか。大丈夫なんですか?」
「きみのせいで、代償を払うことになった。‥‥冗談だ。別に大したことはない。もともと、どちらでもよかったんだ。制度改正に一枚噛ませてくれるなら。」
ふわ、と夫があくびをした。
なんだか、感動してしまった。
あくびをした夫の無防備な姿も。
今までわたしに一切しなかった、政治の話をしてくれるのも。
少しは、わたしを信頼してくれるようになった気がして。
「そのドレスで帰るの?」
部屋に戻ろうとしたわたしに、夫が苦い顔をした。
着替えは自分の部屋にしかないので、朝陽の中では場違いな格好だが、仕方ない。
廊下でばったり使用人に会わないように祈るしかない。
「ちょっと待って。」と夫が衣装箱をごそごそと探り、ひざ下まで隠れる上掛けを持ってきて、わたしの肩にかけてくれた。




