出会いは意図的です。
夫に関して、かつて友人が言ったことがある。
「伯爵は見込み違いだったわ。このわたしが、まんまと利用されるだなんて。」
それ以上は、いくら聞こうとしても教えてくれなかった。
もしかしてあのことだろうかと、思うところはある。
それくらい、わたしと夫の出会いは、不自然だった。
あれは、友人が侯爵と結婚したばかりの頃。
ピクニックに出かけた。
馬車を少し離れたところに待たせて、二人で野原に横になった。
「ねぇ、初夜のこと、聞きたいでしょぉ?」
友人が身を乗り出して、わたしの顔を覗き込んだ。
侯爵との初夜。
下世話な興味だと聞かないようにしていたが、実際のところ気になっていた。
いつも穏やかな侯爵が興奮するなんて、想像できない。
「すごいのよん。まずは耳を、ね。」
わたしの耳元で、そっと囁いた。
そのまま、ぺろりと耳たぶを舐められた。
友人の手袋に包まれた手が鎖骨を撫で、そのまま下がっていく。
触って、と言われて手を引かれ、彼女のふにっとした胸に導かれた。
わたしは彼女についていくのに精一杯で、肩からドレスが落ちても気付かずに、真似して動いた。
彼女が手袋の指先を噛み、手を引き抜いた。
その素手が、いつの間にかまくれ上がっていたわたしの太ももに触れると、思わず身体が強張った。
「じっと、して。」
びくりと身体が跳ねた。
視界に吊り上がった赤い唇が映り、ぼんやりと滲む。
「扇情的だね。」
男の声が飛び込んできたが、すぐに反応できなかった。
まるで、夢の中の出来事のようで。
「あらぁん、伯爵。混ざる?」
伯爵という言葉に、身体が反応した。
「えぁっ?‥‥ぁ、あぁっ!」
上体を起こそうとしたが、指に翻弄されてすぐに身をよじった。
遠目に見たことがあっても、きちんと話したことはない男が、横からわたしの唇を奪った。
男に触れられ、大きく温かい手の感触を素肌で感じた。
女性に触れられるのとはまた違う感触。
友人の細い指と、交互に意識するそれらに頭が混乱し、なにがなんだかよく分からなくなっていく。
「まだまだこれからよぉ。」
それから、二人に翻弄されて、くったりと力を失うまで続けられた。
純潔は失っていないものの、すでに元の自分ではなくなっていると自覚した。
次に伯爵に会った夜会で、わたしは気まずくて彼を避けた。
しかし、わたしが一人になったとき、彼はひっそりと背後から現れた。
「しぃ。」と、太く男性らしい人差し指をわたしの唇の上に置き「秘密は守れているかな。」と微笑む。
その低く抑えた声に、感じたことのないものが背筋を走り、身体が震えた。
恍惚と、彼を見上げた。
こうして、普段は男性に対して壁を作ってしまうわたしも、最初に壁を壊されてしまえば、強く出ることができなくなってしまうものだ。
男慣れしていないのが災いした、と言っていい。
その後も、偶然にか、出かける先々で伯爵と鉢合わせし、その度に意味ありげな視線を交わした。
わたしは、この秘密の関係が特別なものに思え、他の男性が目に入らなくなってしまっていた。
「領地に戻るのでついてきてくれないか。」と珍しく懇願する彼に折れ、なし崩し的に婚姻を結ぶこととなった。
描写がかなり露骨だったので改稿しました〜




