表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/54

夜の書斎は開かずの間です。




屋敷の中には、開かずの間がある。


正しくは、わたしにとっての開かずの間。


夫の書斎である。



結婚したばかりの頃、使用人たちがやけに「夜のお茶のお運び」を気にしているなと思った。


ときには、その係を回している執事に、直接当番について訴える様子も目にした。


その係は、夜、書斎にいる夫にお茶を運ぶという単純な作業だ。


しかしそれは、夫の寵を争う女の舞台だったのだ。


確かめたくて、夜に夫の書斎に行こうとしたことがある。


すると、やんわりと執事に止められる。


「なにかご用件がありましたら、わたくしからだんな様にお伝えさせていただきます。」


なにか、わたしが書斎に行ったら不都合があるのか問えば、


「とんでもございません。しかし、こんな夜中に奥様が部屋をお出になられるなど。そんなことをせずとも、わたくしをお使いくださいませ。」


夜中に部屋から出ることは、はしたないことだ。

高貴な女性は自分で動かずに、使用人を使う。

そういった教育を受けてきたわたしは、強く言うことができなかった。


むっつりと黙ったわたしに、執事はしわの刻まれた顔で苦笑した。

まるで困ったお嬢さんを相手にするような、そんな顔だ。



翌朝、部屋に来た使用人の女に「今日の夜のお茶のお運びは誰なのかしら?」と質問した。


使用人の女は、わたしの顔色をうかがいながら、こわごわと答えた。


その日、ひそひそと他の使用人と話すその少女の姿を見かけた。


「奥様に」「質問されて」「気付かれ」という単語が聞こえた。



それから数日後のこと。

夜、ベッドに横になったものの、どうしても眠れず、こっそり部屋を抜け出した。


キッチンで水を飲もうとして、あえて書斎のほうへ向かった。


途中、誰にも会わずに廊下を進むことができた。


書斎の扉のすき間から、廊下へ光が漏れている。


そっと扉に近近付くと、パンパンと肌がぶつかる音と、女の細く高い喘ぎ声が聞こえた。


時折、がたっ、がたっ、と机だか椅子だかのたてる音もする。


そっとその場を離れ、キッチンへは行かずに自室に戻った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ