13 激闘、最終局面
あいかわらず女勇者アイラ視点ですが、次回はようやくマグナ視点に戻ります(´・ω・`)
「また会ったねぇ、四天聖剣さん」
異形の戦士──ラグディアが笑う。
額に輝く三つの瞳。
異様に長い、ねじくれた四肢。
全身に浮き出た血管は不気味にのたくり、背中からは数本の触手が生えている。
「さっきはちょーっと反撃食らって、いったん退かせてもらったけど……もう傷も癒えたからね。第二ラウンドといこうか」
どうやらリオネスが一度はラグディアを撃退したが、休息してふたたび彼が襲ってきた、という流れらしい。
ラグディアは飄々とした笑顔ながら、その瞳は爛々と輝き、強烈な殺意を宿していた。
「他のみんなが殺されても、僕だけはやられないよ。みんなして、僕を初期型って馬鹿にするけど──」
ラグディアがふたたび笑う。
愉悦とも怒りとも判別がつかない、ひきつったような笑みだった。
「強さじゃ劣っていないつもりさ。初期型には初期型の怖さがあるってことを教えてあげようかな……ふひひひひ」
その背から生えている触手が一直線に伸びた。
狙いはアイラたち──ではなく。
ざしゅっ……!
地面に横たわっている二体の超魔戦刃──巨大なバジリスクと魔剣に、それぞれ突き刺さった。
触手が不気味に脈動する。
「一体何を──」
「まさか、仲間の魔力を……吸収している!?」
訝しむアイラの隣で、セルジュがうめいた。
「ぐ……おおおおおおおおおっ!」
ラグディアは絶叫した。
四肢はさらに伸び、背の触手は三本から十本に増えた。
「がああああああっ!」
雄叫びとともに十の触手を振り回し、鞭のように繰り出すラグディア。
「【最大装弾精密連射】」
「【海破障壁】」
セルジュの矢が触手を撃ち抜き、リオネスの水流の盾が触手を弾く。
ぴろりーん。
どこからか、妙な音が鳴った。
戦場にはそぐわない、軽快なチャイム。
同時に、砕けた触手がみるみるうちに再生していく。
「【触手】スキル……第二階層……!」
ラグディアが小さく告げた。
「これは……そういうことなのか? 僕は、選ばれたのか──」
ぶつぶつとつぶやき、異形の戦士がこちらをにらみつける。
一体なんの話なのか、アイラには分からなかった。
だが、彼の双眸と額にある三つの目──合計で五つの瞳が、爛々とした輝きを増しているのは分かった。
「さあ、いくよ!」
ラグディアがふたたび触手を繰り出す。
先ほど同様にリオネスとセルジュの攻撃で、あっさり吹き散らされる十の触手。
だが、砕けても、ちぎれても、吹き飛んでも──そのたびに再生していく。
「これは──」
二人の四天聖剣は戸惑いの声を上げた。
「第五階層……第十階層……もっと……もっと強く……!」
ラグディアはつぶやきながら、ひたすらに触手を繰り出した。
どうやら、一撃ごとに触手の威力が増しているようだ。
やがてセルジュの矢を弾き、リオネスの水流壁を突き破り──、
「くぅっ……!?」
二人は大きく後退する。
「最初に戦ったときと同じだ。奴は戦闘の最中に、爆発的なスピードで進化、成長する」
「ですが、これはちょっと……成長速度が常識外れすぎませんか?」
「他の超魔戦刃とは明らかに違う──こいつは初期型だと言っていたが」
「むしろ、初期型の方が優秀な気がしますね」
「違いない」
押しこまれつつも、どこか軽口めいた会話を交わせるのは、さすが四天聖剣というべきか。
奇蹟兵装を操るために重要なのは、『心の強さ』。
彼らは、精神的な余力をまだ残している。
まだ──戦える。
とはいえ、戦況は不利だった。
「四天聖剣が二人もいるのに、押されるなんて──」
アイラが呆然とつぶやく。
触手は触れるものすべてをなぎ倒し、破壊の嵐をまき散らしている。
とても割って入れない。
近づけば、それだけで五体をバラバラにされるだろう。
「ふふふぅ……力がどんどん湧いてくるね。なんだろう、この感覚? 今までの限界が限界じゃなくなるような──」
ラグディアの五つの瞳がさらに輝きを増す。
そこに金色の紋様が浮かんでいることに気付いた。
どこかで、見覚えがある。
「まさか、マグナの──」
エルザがうめいた。
「えっ?」
「似てる……!? 【ブラックホール】の表面に描かれている紋様に……!」
「この力があれば、誰も僕を馬鹿にできないね……! ただの人間だったころは、みんなに蔑まれるばかりだった僕が──人類最強戦力の四天聖剣すら凌ぐほどに強くなったんだ。きっと皇帝陛下も褒めてくれる。僕を重用してくれるはずさ!」
歓喜の声とともに、なおも触手を振るうラグディア。
「いったん後退しましょう、みなさん」
セルジュが告げた。
「このままでは、わたくしたちでも危険かもしれません。一度、相手の戦型を分析して──」
「撤退だと! 四天聖剣である私が、こんな奴に背を向けてたまるか!」
リオネスが猛然と反対した。
「あなたの誇り高さは知っています。ですが、無駄死にするわけにはいきません」
「誇りを捨てるくらいなら、死を選ぶ!」
二人の意見が真っ向から対立した。
──ぞくり。
「っ……!」
突然、すさまじい悪寒が走る。
圧倒的な、力の気配だった。
信じられないほどの強烈な威圧感が押し寄せてくる。
眼前のラグディアすら問題にしないほどの──。
次の瞬間、
しゅおんっ……!
ラグディアは悲鳴すら上げられずに消滅した。
いや、吸いこまれたのだ。
アイラたちの後方に出現した、何かに。
ほどなくして、こちらに向かってくる足音が聞こえた。
「やっと合流できた。悪い、遅れて」
「みなさん、無事なのです?」
駆け寄ってきたのは、マグナとキャロルだった。





