10 乱戦1
女勇者アイラ視点です。マグナの出番も近いうちありますので……(´・ω・`)
「勇者が二人か」
小柄な少年がニヤリと笑った。
痩せた頬と三白眼が好戦的な雰囲気を漂わせている。
「奇蹟兵装の神気から察するに第二階位と第四階位あたりでしょうか」
初老の男が値踏みするようにこちらを見た。
穏やかで、紳士的とさえいえるような雰囲気は、戦場にはそぐわないものだった。
「第一階位──四天聖剣ならともかく、それ以外の雑魚など敵ではありません」
「だな。サクッと蹴散らしてやろうぜ、ラッド」
「ええ。ただし油断せずに全力でいきますよ、ラースさん」
二人の超魔戦刃が顔を見合わせ、うなずく。
「……このアイラ・ルセラを雑魚呼ばわりとは大きく出たわね」
アイラはアスカロンを構え、告げた。
先ほどの戦いでは片足を石化され、エルザの助力でなんとか勝てたが、今度はもうミスはしない。
第二階位勇者の誇りに懸けて、彼らを倒す──。
アイラの全身から闘志が立ち上る。
「言っておくが、消耗を避けるためにいったん変身を解いただけだからな」
「敵を前にした以上、こちらも全力で一気に終わらせますよ」
ラースとラッドが身構えた。
その全身がまばゆい光を発する。
次の瞬間、二人の姿が変わっていた。
それぞれが全長十メートル超。
ラースは毒竜に、ラッドは魔剣に。
「『超魔戦刃・魔想解放』──これが俺たちの全開戦闘形態だ」
「この姿になった以上、我らの勝利は絶対です」
同時に、バジリスクが毒の吐息を、デュランダルが光の刃を放ってきた。
「エルザ!」
「【輝きの盾】!」
アイラの声に、エルザが奇蹟兵装の防御スキルを発現する。
毒息と光刃が、輝く幕にぶつかり、
ばしゅっ……!
双方が消滅した。
「へえ、一撃目を防いだか」
うなるバジリスクのラース。
「ですが、防御フィールドも消えた模様。それでは次の攻撃は防げませんよ」
淡々と告げるデュランダルのラッド。
「『輝きの盾』を砕かれてしまうと、次のチャージまでにしばらく時間がかかるわ」
エルザがうめいた。
「次は防げない……」
「防げないなら──攻撃あるのみよ!」
アイラが細剣アスカロンを手に飛び出した。
「正面から突進ですか。無謀ですね」
魔剣デュランダルから無数の光刃が飛んできた。
「こんなもの──っ」
流麗なステップを踏み、華麗な身のこなしでそれらを避けていくアイラ。
「アスカロン──【雷襲の陣】!」
刀身から無数の稲妻をほとばしらせた。
上位魔族にすら大ダメージを与える、アイラの切り札だ。
「ぐあっ……」
雷撃の束がバジリスクの巨体を直撃する。
「まず一体! 次は──きゃあっ!?」
「今ので俺を殺したつもりかよ」
バジリスクは怒りの雄叫びとともに、長大な尾でアイラを弾き飛ばす。
「アイラ!」
大きく跳ね上げられた彼女をエルザが支え、助けてくれた。
「力押しなんて無茶よ」
「……いけると思ったんだけど。ちょっと失敗したわ」
アイラは悔しげに唇をかんだ。
やはり、超魔戦刃は強い。
二体を同時に相手にするのは、さすがのアイラも厳しいだろう。
「はははは! しょせん、勇者なんてこんなもんだな!」
「我らの敵ではなかったようですね」
勝ち誇るラースとラッド。
と、
「──勇者の力を見くびってもらっては困りますね」
響いた声は、アイラたちの後方からだった。
爽やかで、頼もしさを感じる声音。
穏やかでいながら、内に秘めた闘志を感じさせる声音。
「セルジュ様──」
振り返ったアイラの目に、X字型をした翡翠色の弓を構えた青年の姿が映る。
「お二人とも離れてください。全力でいきます──」
セルジュは静かに、内に秘めた闘志を込めて告げた。
弓型の奇蹟兵装『ラファエル』がまばゆい輝きを放つ。
「な、なんだ、この神気は──!?」
「まさか、彼は四天聖剣──」
バジリスクは驚きつつも威嚇するようにうなり、デュランダルは地を滑るようにして下がる。
──闘志をむき出しにするラースと、後退を選んだラッド。
その行動の差が、そのまま二人の命運を分ける。
「奇蹟兵装ラファエルが一度に放てる矢の最大数は777──そのすべてを一点に集中して放ちます」
セルジュが弦を引き絞り、矢を放った。
宣言通り、その数は777本。
それらは空中で集まり、輝く巨大な光の矢となって突き進んだ。
「【最大装弾一点突破】」
セルジュが静かにつぶやくとともに、
「がああっ……はぁっ……!?」
胴体部を撃ち抜かれたバジリスクが断末魔の苦鳴を上げた。





