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8 剣と盾2

引き続き女勇者アイラ視点です。

「アイラ、大丈夫!?」


 エルザが駆け寄ってきた。

 盾型の奇蹟兵装『アイギス』を構え、敵の石化能力を防ぐ障壁を張る。


「……ごめんなさい。こんなミスをするなんて」

「確かに実力は高そうだけど、油断が過ぎるわね」


 ラシェルが嘲笑する。


「あなたが最強の四天聖剣ではなく、その下の第二階位に甘んじているのも──おおかた、その心の甘さが原因でしょう?」

「っ……!」


 アイラの表情が変わった。

 胸の奥で怒りの炎が燃え上がる。


「見透かしたようなことを言われるのは、不愉快よ」

「あら、不愉快なのは図星だからじゃないの?」


 ラシェルはあいかわらず嘲笑している。

 が、その瞳はアイラの心の奥を見通すかのように、鋭い眼光を放っていた。


 自分は一番にはなれない──。

 その事実は、彼女にとって絶対に触れられたくない劣等感だ。


「──あなたを倒すわ、ラシェル」


 アイラはアスカロンを構え直した。


「あたしの誇りに懸けて、必ず」

「その足で? やれるものなら、やってみなさい!」


 ラシェルが地響きを立てて近づいてくる。

 たちまち周囲の木々が灰色の石に変わり、さらに女巨人に踏み砕かれた。


「奇蹟兵装アイギス──【輝きの盾】!」


 エルザが黄金に輝く八角形の盾をかざした。

 周囲にまばゆい輝きが広がり、鮮烈なスパークが連続して弾ける。


「あいつの石化能力は私が防ぐわ、アイラ」


 と、エルザ。


「昔と違って、今の私は防御フィールドを長時間持続できる。防御は私に任せて、あなたは攻撃を!」

「エルザ、あなた──」


 以前は奇蹟兵装をまるで使いこなせていなかったというのに、今は第四階位にふさわしい使い手っぷりだ。


 成長しているのだ、エルザは。

 きっと冒険者になってから、マグナやキャロルたちとともにクエストをこなし、その中で『心の力』を成長させてきたのだろう。


「それなら──あたしも成長しないと、ね」


 口元にかすかな笑みを浮かべる。


 ラシェルに自分の中の劣等感を見抜かれ、心がひるみかけた。

 だが、エルザのおかげで勇気が湧いてきた。


 彼女が成長したように、自分も前に進みたい。

 奇蹟兵装を操るのは『心の力』。


 自分の心が強くなれば、奇蹟兵装はより大きな力を貸してくれる。

 ここが限界じゃない。

 限界であってたまるか。


「あたしは、もっと強くなる……!」


 今ここで──ラシェルを倒し、成長してみせる。

 心の力を強め、前へ進む。


 戦う。

 臆さず、退かず。


 敵を討つ!


「それが第二階位勇者アイラ・ルセラの誇りよ!」


 細剣を手に、奇蹟兵装のスキルを発現させる。


「行くわよ、アスカロン──スキル【雷撃乱舞(らいげきらんぶ)】!」


「無駄ね」


 ラシェルの巨体から魔力の奔流が吹き出し、障壁となって雷撃をやすやすと弾き返した。


「あたしの体には上位魔族とメデューサを合成されているの。モンスターの攻撃性能と耐久力、魔族としての魔力、そして人間の知性──すべてを併せ持つ超魔戦刃(イクシードソード)に敗北はないわ」

「敗北はない? 大きく出たわね」

「まして、片足が石化している今のあなたでは、ね!」


 ラシェルが地響きを立てて歩みを進める。

 石化はエルザの盾で防げるが、肉弾攻撃で力押しされたらさすがに押し切られるだろう。


「アイラ、私が奴を『包む』わ。狙って!」


 エルザが叫んだ。


「え、狙うって──」

「頭のいいあなたなら──察してくれるでしょ」


 ぱちりと片目をつぶるエルザ。

 養成機関の同期として長い時間を共に過ごしてきた仲間のアイコンタクトに、アイラはかすかに微笑んだ。


「分かったわ。タイミングをしくじらないで」

「あなたも、ね」


 もう一度アイコンタクトを交わし、アイラは前に出た。


「自分から踏みつぶされに来たの? なら、望みどおりに──」

「奇蹟兵装アイギス──スキル【光聖牢獄(こうせいろうごく)】!」


 エルザが盾を頭上に掲げて叫んだ。

 同時に、奇蹟兵装を中心に展開されていた防御フィールドが『射出』される。


「えっ……!?」


 そのままラシェルの巨体を防御フィールドが包みこんだ。

 その、直前。


「アスカロン──スキル【雷撃乱舞】!」


 ふたたびアイラが奇蹟兵装のスキルを発現する。


「し、しまっ──」


 ラシェルを包んだ防御フィールド内で、アイラの雷撃が炸裂し、乱反射し──その巨体を焼き尽くした。

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