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6 広がる戦局

前半はマグナ視点、後半は女勇者アイラ視点です。

「排除する? ふふ、大きく出たわね」


 蛇髪の女巨人──ラシェルが艶然と笑う。


「その力には射程距離が存在するのでしょう? ならば、その範囲内に入らない限り、我らには無力です」


 と、巨大な魔剣の姿をしたラッド。


「スピードなら俺たちのほうが上。お前のスキルの効果範囲には絶対に入らねーよ」


 巨竜バジリスクになったラースが勝ち誇る。


「近づかなければ、お前たちが俺を倒すことはできないぞ」

「倒す? ンなことしねーよ」


 ラースが鼻を鳴らした。


「あなたは直接立ち向かうには危険すぎます。ですが、そのスキルはしょせんあなたの『意志』によって発現するもの」


 と、ラッド。


「その『意志』を折れば、スキルを使うことはできないわ」


 ラシェルが笑う。


「俺の『意志』を折る……だと」

「さっきの反応を見て分かりました。あなたのウィークポイントが」


 ラッドが告げる。


「弱点……?」

「人間だからこその甘さと弱さ……先にお前の仲間を始末するってことだよ」


 ラースが吠えた。

 その隣でラシェルが笑みを深める。


「さっきラースが言ったように、スピードはあたしたちが上。あなたに追いつかれる前に、あなたの仲間たちを殺してきてあげる」

「お前ら……っ!」


 俺は怒りの声を上げた。


 そんなこと、絶対にさせないっ……!


「【ブラックホール】!」


 呼びかけるものの、射程距離外にいる奴らを吸いこめない。


 奴らは背を向け、あっという間に去っていった。

 まず仲間から狙おうとするなんて──卑怯な連中だ。


「追うぞ、キャロル!」

「なのです!」


 俺はキャロルは急いで走り出す。


 奴らは三方向に去っていった。

 まず追いかけるべきは、どいつだ──。


    ※


「まさか、あなたと一緒に任務をこなす日が来るなんて、ね」


 アイラは隣を歩くエルザに微笑んだ。


「……ふん、最下位勇者だった私が、あなたとコンビを組むなんておこがましいとか思ってるんでしょう?」

「あら、あたしは以前からあなたには一目置いていたわよ」


 ムッとしたように口を尖らせるエルザに、アイラが微笑んだ。


 世辞や慰めではない。

 実際、エルザが心に秘めた精神力は、かなりの強さだった。

 養成機関で一緒に訓練していたときも、成績では大きく差をつけていたが、いつか追い抜かれるのではないか……とひそかに恐れていたほどだ。


 だが、結局エルザは奇蹟兵装の力を操る『心の力』は弱いままだった。

 そして機関を卒業する際に、盾型の奇蹟兵装『スヴェル』──その中でも最もランクの低いバージョンのもの──を授かり、最下位の勇者になったのだ。


 やがて勇者としての活動にも行き詰まったエルザは、冒険者メインで活動するようになった……と聞き、アイラは複雑な思いを抱いたものだ。

 本来なら四天聖剣(セイクリッドエッジ)とまではいかなくても、自分と同じ第二階位か、それに近い階位でもおかしくなかった彼女。

 それが、結局勇者としては芽が出ないまま終わりそうだ。


 残念な気持ちと、自分が追い抜かれることは、もうないだろうという安堵感と。


「まあ、今の私はいちおう新たな奇蹟兵装『アイギス』を授かっているし、前よりは格段に強くなっているけどね。おーっほっほっほ!」


 いきなりテンションを上げて高笑いをするエルザ。


 このへんの気持ちの波の激しさも、昔のままだ。

 あるいは、こういった心のムラのようなものが、奇蹟兵装を安定して操ることができない、という欠点につながっているのか。


(あなたは──もっと強い勇者になれるのに)


 憧憬と嫉妬。

 二つの感情の狭間で、アイラはエルザを見つめた。


「──!?」


 ふいに悪寒を覚えたのは、そのときだった。


「何かがいる……!」

「えっ」

「嫌な予感がするわ。奇蹟兵装を展開して、エルザ。防御を!」

「り、了解よ! 『アイギス』!」


 エルザが背中に背負っていた八角形の盾をかざす。

 二人を覆うように半径十メートルほどの輝く障壁が出現した。

 直後、


 バチィィィィッ!


 激しいスパークがいくつも弾ける。


「敵襲……!?」


 アイラは目をこらした。

 地響きとともに、何かが近づいてくる。


「見つけたわよ。どうやら、マグナ・クラウドの仲間のようね……!」


 木々から顔を出しているのは、蛇の髪を生やした女巨人だった。

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