4 邂逅と襲撃
「プレッシャー?」
「嫌な気配が押し寄せてくるのです。敵意と闘志、そして──殺意」
俺の問いにうなずくキャロル。
【ブラックホール】を常時発動防御から通常の形態に切り替えた。
いちおう臨戦態勢だ。
次の瞬間、巨大な岩が十数個まとめて飛んできた。
矢のように、俺たちを狙って。
しゅおんっ……!
だけど【ブラックホール】の前には、どんな攻撃も通用しない。
あっさりとそれらを全部吸引する。
「なんだ……?」
「へえ。お前、すごいスキルを持ってるんだな!」
岩が飛んできた方向から、そんな声が聞こえた。
勇者ギルドから支給された双眼鏡を取り出す。
たぶん1キロ以上先に──人影があった。
魔法か、スキルを使っているのか、それだけの距離があっても、声が鮮明に聞こえる。
人影は、全部で三つ。
少年と女、初老の男だ。
まさか、今の岩はあいつらが投げてきたのか?
だとすれば、人間業じゃない。
人間を、超えている。
「あるいは、人間そっくりの魔族やモンスターの類か……?」
「いえ、あれは人間なのです」
キャロルが言った。
「匂いで分かるのです。ただ──魔獣や魔族の匂いも混じっているようで、正体不明なのです」
「魔獣や魔族……? それって」
思い出す。
かつてレムフィール王国を襲った帝国の『超魔獣兵』を。
後にレムフィールの魔法使いたちが分析したところによると、あれは野生のモンスターと魔族を合成して作られた生体魔導兵器だったという。
と、
「うかつに手を出さないように言ったでしょう、ラース」
「悪い悪い。不意打ちなら殺れると踏んだんだけどよ」
三人の会話が聞こえた。
「異能系の封印スキルでしょう。ちょうど術者から一キロ離れた場所で岩が消滅しました。少なくとも射程距離が一キロはあるはず。それよりも近づくのは危険です」
「了解よ」
「へいへい」
初老の男の言葉に、女と少年がうなずく。
やっぱりスキルか魔法でも使って、わざわざこっちに聞かせているのか?
なんのために──。
「駆け引きか、なんらかの揺さぶりでも駆けてくるつもりか……?」
「マグナさん……」
「俺から離れるな、キャロル」
いちおう注意しておいた。
俺のスキルの射程は一キロある。
その範囲内なら、キャロルも守ることができるから、めったなことはないだろうけど。
戦場で油断は禁物だ。
「我らの任務はあくまでもラグディアさんの『救出』です。あの者に手を出すのは得策ではありません」
「んー……けど、このまま何もせず逃げるのもシャクに触るだろ?」
「ラースさん」
「固いこと言うなって、ラッドのおっさん。俺らは戦うために作られた改造兵士じゃねーか。なら、その力を存分にぶつけたいってのは『人情』ってもんだろ?」
初老の男──ラッドにニヤリと笑う少年ラース。
「じゃあ、もういっちょいってみようか! こいつを受けられるか、人間!」
言うなり、ラースが大きく口を開いた。
「かはあっ!」
吐き出されたのは、紫色の息。
「これは──!?」
しゅおんっ……!
その息が射程内に入ったとたん、例によって【ブラックホール】が吸いこんでしまった。
俺に、あらゆる攻撃は通じない。
「俺の毒息が通じない……だと」
なるほど、毒の息だったのか。
【ブラックホール】が全部吸いこんでしまうから、敵の解説がないとどんな攻撃だったのかさえ、よく分からない。
「あなたばかりずるいわよ、ラッド。あたしだって本音は戦いたかったのに」
「ラシェルさんまで……」
「ちょっとくらいいいでしょ? 倒してしまえば問題ないじゃない」
たしなめるラッドを押しのけ、ラシェルという女が前に出た。
「蛇魔女の魔眼!」
呪言とともに、彼女の周囲が灰色に変色する。
「なんだ……!?」
「里で聞いたことがあるのです。石化の魔力を持つ『蛇魔女』という魔族がいる、って」
「石化能力──」
じゃあ、あの女はメデューサと同じ能力を持っているのか?
変色現象はどんどんとこっちに近づいてくる。
【ブラックホール】は敵やその攻撃を吸いこめるけど──こんなものの効果まで吸いこめるんだろうか?
俺は一瞬、ヒヤッとする。
もしスキルが効かなかったら、俺もキャロルも石にされてジ・エンドだろう。
俺は反射的にキャロルの前に出る。
と、
しゅおんっ……!
特に問題なく、いつもの吸引音が鳴った。
そして、変色現象が止まる。
「……普通に吸いこんだな」
俺はホッとしたような、ちょっと呆気にとられたような気持だった。
「石にならない!? そんな──」
ラシェルが一キロ先で呆然とした声を上げる。
「あなたの魔眼は、その眼光が相手に届いて初めて効果を発揮します。どうやら眼光自体を吸いこまれてしまったようですね」
初老の男が苦笑交じりに言った。
「魔眼の効果さえ封殺とは、本当に規格外です……」
【18.12.15追記】8章ラストの整合性を取るために、超魔戦刃たちのセリフ回しを修正しました。
具体的には、「全員が最初からマグナに対して戦意全開」→「戦意を抑えきれないラースとラシェル、たしなめるラッド」という感じに変わっています。大筋は変化なしです。
感想欄でこの辺りの矛盾点を指摘してくださった方、ありがとうございますm(_ _)m





