2 四天聖剣VS超魔戦刃
今回は四天聖剣リオネス視点になります。次回からマグナ視点に戻ります。
──妙な手ごたえだ。
リオネスは内心でつぶやいた。
十メートルほどの距離を置き、対峙しているのは、異形の戦士。
五つの瞳を備え、背中から触手を何本も生やしている。
ラグディア、と彼は名乗っていた。
どうやら魔導改造を受けた兵士らしい。
力量自体は、おそらく上位魔族クラスだろう。
魔王の側近である『魔軍長』とすら渡り合える地上最強の勇者──四天聖剣リオネスにとっては、格下と呼べる相手だ。
だが、何かがおかしい。
その違和感がリオネスの剣を鈍らせる。
結果、ラグディアとの戦いは存外に長引いていた。
「どうしたの? そろそろ降参かな?」
ラグディアが笑う。
「ほら、剣が鈍いよ。四天聖剣様ぁ」
「ぬかせ」
打ちこまれた剣を、背中からの触手を、リオネスは大剣を振り回して防ぐ。
──速くなっている。
そう、一撃ごとにラグディアの攻撃が鋭さと重さを増していた。
異常な成長速度だ。
この戦いの中でさえ、別人のように強さを増している──。
「だが、私の敵ではない」
リオネスは反撃の剣を繰り出した。
いくら相手が強くなろうと、もともとの力量差では自分の方が上回っているのだ。
「このまま押し切ってやる──」
「見える……見えるよぉ!」
ラグディアの剣と触手が、それをブロックする。
「当たらない……?」
リオネスは眉をひそめた。
つい先ほどはこの攻撃で手傷を負わせたのだ。
それが今は、通じなくなっている。
「やはり成長しているのか──それも、想定以上に」
確かにラグディアの力は上位魔族クラス。
だが、その力が戦いの中で加速的に進化している。
異常な速度で──成長している。
このままでは、いずれは魔軍長クラスにまで到達するかもしれない。
そんな、不穏な気配があった。
「ふふぅ、僕はどこまでも強くなるよ。剣術の素人のまま、君よりもねぇ」
「笑わせるな。最強は、この私だ」
リオネスは青い大剣──『奇蹟兵装ガブリエル』を上段に構えた。
ザイラス流剣術の基本の構えの一つ。
彼の祖父にして『剣聖』と呼ばれた勇者ザイラスが生み出した剣術である。
今では大陸最強と称される正統派剣術として広く伝わっていた。
リオネスにとって、家門の誇りともいえる剣術。
「その誇りを持って、お前を斬る」
大剣を手に告げた。
「すべてを切り裂き、滅ぼせ、ガブリエル──滅殺形態」
青い輝きが剣の表面を覆っていく。
凝縮された神気がまばゆいスパークをまき散らした。
奇蹟兵装は神の力──『神気』を操り、絶大な破壊力を顕現させる、まさしく奇蹟の武具。
その神気を破壊能力に特化させて刀身にまとったのが、この滅殺形態だ。
「これはまた、とんでもないエネルギーだね……!」
飄々としていたラグディアも、さすがに顔をひきつらせた。
「終わりだ、ラグディア!」
地よ割れよとばかりに踏みこむ。
その体が、さらに剣先が──上下左右に激しくブレる。
繰り出したフェイントは全部で百三十七。
「っ……!?」
異常な動体視力を誇るラグディアといえど、さすがにそのすべてに反応することはできまい。
「ザイラス流剣術奥義──『雷閃龍牙刃』」
必殺の威力と気合いを込めた、無双の斬撃だ。
青く輝く軌跡は、光速に匹敵するスピードで百三十七方向から同時に繰り出され、ラグディアを頭から両断した。
帝国が生み出した改造兵士ラグディアの力は、しょせん人為的に身に着けたもの。
リオネスから見れば、まがい物の付け焼刃だった。
一方の彼は、最強の象徴ともいえる勇者ザイラスの家系に生まれ、その『最強』を継ぐために──幼いころから血のにじむような修業を重ねてきた。
そして、今代の四天聖剣の一人として選ばれた。
「言ったはずだ。お前など、私の敵ではないと」
リオネスは剣を下し、静かに告げる。
最強の一族である自分が、まがいものの改造兵士などに負けるはずがない。
己の血筋への絶対的な誇り──。
それがリオネス・メルティラートの根幹に在るものだった。
「いい気になるのは、まだ早いんじゃないかなぁ」
「──!?」
背後からの声に、リオネスはとっさに自身の周囲に水流の壁【海破障壁】を張り巡らせた。
触手群は高圧水流によって阻まれ、弾かれる。
考えるより先に体が動き、奇蹟兵装のスキルを発動できたのは、たゆまぬ訓練の為せる技だ。
「今のはヒヤッとしたよ。さすがは四天聖剣様だねぇ」
「──残像だったか」
リオネスは背後を振り返る。
その眼前に切っ先が迫った。
「!?」
予測よりも、さらに──圧倒的に速い。
鮮血が、しぶく。
左肩を切り裂かれて後退するリオネス。
「この……スピードは──」
「まだまだ速くなるよ……ふふ」
ラグディアが笑った。
「どこまで成長するのだ、こいつは」
リオネスは、初めて戦慄した。
あるいは、すでに今のラグディアは魔軍長クラスの強さを身に着けているのではないだろうか。
あるいは──さらに、その上の強さを。





