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1 ラエルギアの森

前半は超魔戦刃たちの視点、後半はマグナ視点です。

 美しい森林が一面に広がっている。

 木々のはるか向こうに、壮麗な白い尖塔が無数に見えた。


 魔法王国ラエルギア。

 その王都を彩る尖塔群だ。


 ここはラエルギアの王都からはるかに離れた国境付近である。


「あれが噂に名高いラエルギア王都の尖塔群ね。綺麗」


 ラシェルが無数の尖塔を見つめて微笑んだ。

 黒いドレスに長い紫色の髪をした妙齢の美女である。


「魔法王国っていうだけあって、確かに他の国より濃い魔力が漂ってるな」


 くんくんと犬のように鼻を鳴らすラース。

 ぼろぼろに破れた短衣姿の小柄な少年だ。


「自然から湧き出る魔力が濃い──それが、この国の魔法文明を他国のそれよりも進歩させた一因でしょう」


 ラッドが柔和に微笑んだ。

 つるりとした禿頭に手入れされた口髭、でっぷりと太った初老の男だった。


 超魔戦刃(イクシードソード)


 三人は、そう呼ばれている。

 いずれもヴェルフ皇帝の大魔力と、魔王の秘法によって製造された改造兵士だった。


「まあ、ラエルギアの魔法文明について考察するのは後回しにしましょう。ラグディアを探さないと」


 と、ラシェル。

 彼女たちが皇帝から受けた命令は、同じ超魔戦刃であるラグディアの行方を探すことだった。


「この近くだと思うんだよなぁ」


 ふしゅう、と紫色の息を吐き出すラース。


「奴の匂いがかすかに漂ってくる。そうだな……十時の方向からだ」

「相変わらず獣並みの嗅覚ね」

「俺と合成された魔獣や魔族が感覚器官の優れたタイプみたいだからな」


 ラシェルのつぶやきにラースがニヤリと笑った。


「では、ラースくんの感覚を信じて、そちらへ向かいましょうか」

「それと」


 促すラッドに、ラースが言った。


「他にも複数の匂いがするぞ。こいつは勇者かな? 奇蹟兵装とかいう神の武具の匂いだ」

「勇者といえど、最上位クラスを除けば、あたしたちの敵じゃないわよ」

「いや、最上位クラスもいるっぽいぞ。一人、とんでもない神気(オーラ)を放ってる」


 と、ラース。


「それと獣人に……もう一人は、なんだこれ? 妙な気配だ」

「妙な気配、ですか」

「ああ、神でも魔でも竜でもない。そのどれとも違う、強い力の気配──」


 言って、ラースが顔を上げる。


「まさか、皇帝陛下が言ってた『力』か……!?」


 因果を──運命を、超越した力。

 神や魔王すら凌ぐかもしれない、超絶の能力。


 ヴェルフ皇帝はそう言っていたのだ。


    ※


 周囲には美しい森林が一面に広がっている。

 その木々のはるか向こうには、ラエルギア王都の象徴ともいえる白い尖塔群が見えた。


 俺たちは行方不明になった四天聖剣リオネスを探すため、ここまで来た。


 情報によれば、暴走した帝国兵士との戦いでこの付近までやって来て、その後に行方が分からなくなったとか。

 双子勇者のアイラやキーラも同じく行方不明だから、二人のことも探さなきゃならない。


 俺たちはさっそく森の中を進んだ。


「──覚えのある匂いがするのです」


 しばらく進んだところで、キャロルが言った。


「匂い?」


 彼女は獣人だから嗅覚が人間よりもはるかに鋭い。


「こっちなのです」


 キャロルの案内に従い、俺たちは進んだ。

 ほどなくして──、


「あなたたちは……!」


 驚いたような顔で茂みの向こうから、二人の勇者が現れる。

 金髪を肩のところで切りそろえた美少女と、同じ髪型の銀髪の美少年。


 かつてともに戦った双子の勇者、アイラとキーラとの再会だった。

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