10 出陣と出発
前半はヴェルフ皇帝視点、後半はマグナ視点です。
『超魔戦刃』。
魔王エストラームから授かった秘法により生み出した究極の生態魔導兵器『超魔獣兵』の力を宿した改造人間を、皇帝はそう命名した。
その試作第一号である『ラグディア』は、現在ラエルギアとシルカの国境地帯で四天聖剣リオネスと交戦中という報告が入っている。
リオネスに手傷を負わせたものの、ラグディア自身もダメージを受けたようだ。
現在は少ない手勢に守られながら撤退中。
だが、それをラエルギアの魔法師団が追っているとのこと。
超魔戦刃は圧倒的な戦闘力を誇るものの、地上最強の四天聖剣と戦った後なら、相当のダメージが残っているはずだ。
噂に名高いラエルギア王国の魔法師団が相手では、無事ではすむまい。
「ラグディアをここで失うのは惜しい」
皇帝がうめいた。
試作した超魔戦刃は全部で八体。
絶大な魔力を誇る皇帝といえど、それが限界だった。
魔力の消耗が激しく、回復するまで数カ月はかかるだろう。
当分は新たな試作兵士は生み出せない。
一体たりとも無駄に損耗するわけにはいかなかった。
「お前たちに命ずる。ラグディアを救出してまいれ」
皇帝が告げた。
「メンバーは二号、五号、八号だ。よいな?」
暗がりの中から、三人の人影が進み出た。
「承知いたしました、陛下」
長身の女──試作第二号の『超魔戦刃』が淑やかにうなずく、
その頭髪が蛇のようにうねり、瞳が妖しく輝いた。
魔力を解放すれば、すべてを石化させる呪いの髪と瞳だ。
「なんなら、魔法師団とかいう連中をついでに倒してきてもいいですよ? へへへ」
小柄な少年──試作第五号の『超魔戦刃』がどう猛に笑う。
その口から紫色をした吐息が広がる。
魔力を解放すれば、あらゆるものを腐食させる毒素がこもる呪いの吐息。
「無礼な口は謹んでください。陛下のご命令は『救出』です。『討伐』ではありませんよ」
でっぷりと太った初老の男──試作第八号の『超魔戦刃』がたしなめた。
その手に淡い輝きが宿る。
魔力を解放すれば、あらゆるものを切断する光波を放つ呪いの手だ。
「うむ、無用な戦闘は避けよ。ラグディアを救出次第、即座に帰還するのだ。よいな?」
「はっ」
三体の改造兵士の声が唱和した。
※
魔法王国ラエルギアと商業王国シルカ──その国境地帯に、俺たちはやって来た。
メンバーは四天聖剣のセルジュとキャロル、エルザ、そして俺の四人だ。
現在、ヴェルフ帝国はここに攻め入っているらしい。
軍事力が高い二国を同時に相手取り、帝国は一歩も引かない戦いを繰り広げているということだった。
いや、むしろ『超魔獣兵』を前面に押し出した力押しの戦術で、戦況は帝国有利に傾いているとのこと。
だが、そんな状況はリオネスたち三人の勇者がやって来たことで崩れつつある。
リオネスが超魔獣兵を見つけた端から撃破しているからだ。
あくまでも彼は降りかかる火の粉を払っているだけのようだが──。
帝国も、虎の子ともいえる『超魔獣兵』を次々に倒されてはたまらない。
切り札である改造兵士ラグディアを派遣し、リオネスと激しい戦闘を繰り広げた。
そして──。
「三人の行方が分からない?」
付近の住民に聞き取りを行ったところ、リオネスとアイラ、キーラの三人は行方不明だということだった。
「どうやら敵の兵士との戦闘のどさくさで、行方知れずになったようです。いずれも負傷していたようなので心配ですね……」
沈痛な面持ちのセルジュ。
「まず状況把握のためにリオネスさんたちを探しましょう」
「何か手がかりはあるのです?」
キャロルがたずねた。
「魔法王国ラエルギア方面で、それらしき人影を見たという話を聞きました。まずはそこに向かうのがよいかと」
「ラエルギア……か」
大陸でも随一の魔法文明を誇る国である。
「出発しましょう」
俺たちはさっそくラエルギア王国に向かうことになった。
次回から第9章「超魔戦刃激闘編」になります。
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