7 大聖堂にて
前半は魔族ルネ視点、後半はマグナ視点です。
「空間を操る奇蹟兵装を使う唯一無二の勇者──ベアトリーチェさん、ですね?」
ミジャスが黒髪の女勇者を前に微笑む。
彼女はミジャスの拘束魔法によって身動きが取れない状態にされている。
もともと戦闘は不得手なタイプなのか、抵抗らしい抵抗はしなかった。
とはいえ、まったく恐れる様子も見せず、それどころか値踏みするように傲然とルネたちを見つめており、肝は据わっているようだ。
「お母様──いえ、邪神官様によい手土産ができましたわ」
「──戦場からは遠ざかっちまったな」
ルネは小さく息をついた。
「ルネ様にはこのまま私と一緒に皇帝の城まで来ていただきます」
ミジャスが告げた。
「撤退、か」
「その剣では戦闘不能でしょう?」
と、ミジャス。
リオネスとの戦いで、ルネの大剣はボロボロだった。
この大剣はダークブレイダーとしての基本装備であり、自己修復能力を備えている。
が、その修復にも数日の時間がかかるだろう。
どうやらミジャスの治癒呪術でも、大剣は直せないようだ。
「ナイフも使い果たしたようですし」
「……分かったよ」
ルネはため息をついた。
先ほどの戦いでつかみかけた二刀流を試そうにも、武器がなくてはどうにもならない。
いったん体勢を整えるしかないだろう。
恐怖心で敵から退くことは良しとしないが、戦術的な思考で撤退することは是とするのがルネである。
何も考えずに猪突猛進するだけなのは蛮勇であって、勇気ではない。
戦士でも、ない。
ルネはそう考えていた。
「では、皇帝の元へ参りましょうか? ルネさんもご一緒に」
「俺も皇帝に会う必要があるのか?」
「ふふ、あなたが求める力を──そのヒントを得られるかもしれませんよ」
微笑むミジャス。
「人間としては隔絶した魔法の才能を持ち、エストラーム様が直々に秘法をお授けになった男ですから」
「力を得るヒント……ね」
つぶやき、ルネは戦場にもう一度視線を向けた。
時折、轟音や衝撃波が鳴り響く。
リオネスとラグディアの戦いが繰り広げられているのだろう。
今は、彼らの戦いに割って入るほどの力はない。
「だが、いずれ必ず──」
ルネは、ぎりっ、と奥歯を噛みしめた。
※
俺たちは勇者ギルドの総本部──『大聖堂』がある神聖王国セイロードまでやって来た。
で、俺は前回同様に上層部と対面した。
目の前には石板状の通信端末が十個、等間隔に円を描くようにして浮かんでいる。
俺と上層部はその端末を介して会話をするのだ。
「以前は話が途中になってしまったが、我々は君をぜひスカウトしたい」
「勇者として最上級の待遇を与えよう」
「そう、最強の四天聖剣と同じ──いや、それ以上の」
「君はSSSランク冒険者になったそうだが、我々の元に来れば、さらに報酬を上積みするぞ」
話は前回と同じく、勇者ギルドへの勧誘だった。
「あの、俺は奇蹟兵装とか使えないので、そもそも勇者としてギルドに入るのは変なんじゃないかと……」
根本的なことを聞いてみた。
「そんなものはどうにでもなる」
「我々が規則だ」
傲然と告げる上層部たち。
「それに君は──使徒様からも誘われたのだろう?」
「えっ」
天軍に加われ、と言ってきた使徒ベルデの話を思い出す。
「我々も神託で報告を受けている」
「天軍に入るなら、それは神に選ばれた戦士になるということ──すなわち勇者だ」
「そんな人間が勇者ギルドに入ってくれれば、我々の組織の栄光もさらに輝く」
要は──俺がいれば勇者ギルドに箔がつくって言いたいのか?
けっこう俗な考え方をするんだな、勇者の組織も。





