2 祝福
「SSSランク昇格? 俺が?」
アルトタウンの冒険者ギルド支部に行くと、窓口嬢のナターシャからそう告げられた。
突然のことに理解が追いつかない。
「えっと……Sランクから一気にSSSまで昇格、ってこと?」
「はい。この間のクエスト達成が評価されたようですね」
重ねてたずねると、ナターシャがにっこりと笑った。
いや、俺がSSSランクって──。
「いやいやいやいやいや」
さすがにちょっと信じられない事態だ。
「すごいのです、マグナさん!」
「やったじゃない!」
キャロルとエルザが祝福してくれた。
──けど、二人とも驚きの方が大きいのか、目を丸くしていた。
まあ、にわかには信じられない事態だよな。
俺だって、まだ信じられない。
「とうとう冒険者の頂点ですね。この町からSSSランクが出るなんて、初めてだと思いますよ」
ナターシャは嬉しそうだ。
いや、彼女だけじゃない。
他の窓口嬢たちもこっちを見て、微笑んでいた。
さらに周囲の冒険者たちも。
「おめでとう、マグナ!」
「SSSランクかよ、すごすぎるだろ!」
「おいおい、今度一緒にパーティ組もうぜ!」
「何言ってるんだ、天下のSSSランク様が俺たちと簡単に組んでくれるかよ!」
祝福と冗談交じりの軽口と拍手と歓声と──。
みんなが、賞賛してくれていた。
みんなが、お祝いしてくれていた。
呆然としていた俺だけど、ちょっとだけ実感がわいてくる。
「あ、ありがとう」
俺は戸惑いつつも、笑顔で応えたのだった。
今日の討伐クエストは、いつも通り瞬殺で終了した。
いちおうギルドに来ていた依頼の中では最高難度だったんだけど──。
魔王の側近すら問題にしない【ブラックホール】の前には、敵じゃない。
で、俺たちは首尾よく報酬を受け取り、その日の仕事は昼過ぎで終了ということになった。
さて、これからどうしようかな。
「じゃあ、マグナさんの昇格パーティをするのです」
「いいわね。賛成よ」
キャロルとエルザが提案した。
「ありがとう、二人とも」
ちなみに俺はまだ呆然とした気持ちが残っている。
だってSSSランクだからな。
冒険者になったときから、自分が頂点のランクであるSSSに到達する姿を夢想したこととくらいはある。
だけど、それはまさしく『夢物語』だ。
それがこんなにあっという間に──むしろ、あっけなくとすら言える勢いで到達してしまうなんて。
どうしても現実感が湧かない。
「美味しいものいっぱい食べましょうね」
「そうそう、SSSランクならたくさん稼いでるから最高級レストランでも問題ないわよね?」
「──って、俺のおごりかよ!?」
普通、祝う方が金出すんじゃないか……?
いや、別に俺が出してもいいんだけど。
「えへへ、冗談なのです」
「そうよ。私たちだって、それなりに稼いでるんだから」
「でもSSSランクになって報酬も一気に上がりそうだし、俺が出しても──」
俺は慌てて提案した。
考えてみれば、二人のランクは上がってないから、俺とは報酬格差がけっこう出てしまっている。
そのうえ奢ってもらうのは気が引ける。
さっきはつい勢いでツッコんじゃったけど……。
「だめなのです」
「そうよ。お祝いする方が出すのは当たり前でしょ。マグナはおとなしくおごられなさい」
と、詰め寄るキャロルとエルザ。
「でも──」
「お祝いさせてください、なのです」
「おごりたいのよ。私たちが」
二人が嬉しげに微笑む。
「お、おう」
……ありがとう。
気圧されつつ、内心でつぶやいた。
二人の心遣いが、嬉しかった。
地位とか名誉とか報酬とか、そんなものは割とどうでもよかった。
ただ、こうして祝ってくれる仲間がいることが──。
SSSランク昇格よりも、嬉しかった。





